ファイナンス 2021年6月号 No.667
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しています。一方、フラット化については∆Rflattener,c(t)=0.8・(R̅short,c・e-tx)-0.6・{R̅long,c・(1-e-tx)}で算出されます。また、△EVEとは、「銀行勘定の金利リスクのうち、金利ショックに対する経済的価値の減少額として計測されるもの」でしたが、数式で表現すると下記のように記載できます*23。∆EVEi,c=K∑k=1CF0,c(k)・DF0,c(tk)-K∑k=1CFi,c(k)・DFi,c(tk)+CAOi,cこれはIRRBB規制に関する文章でよく目にする式であり、一見複雑にみえますが、本文で記載したことを数式で記載しているだけです。金利変化前に銀行がビジネスを行うことにより生み出すキャッシュフローを{CF0,c(1),CF0,c(2),…,CF0,c(K)}と記載すると、これを現在価値にするため、ディスカウント・ファクター(DF0,c(tk))を掛け合わせて、さらに足し上げることで、銀行がビジネスを行う上で発生するキャッシュフローの現在価値の合計(∑Kk=1CF0,c(k)・DF0,c(tk))を算出しています。一方、金利変化後の銀行が生み出すキャッシュフローは{CFi,c(1),CFi,c(2),…,CFi,c(K)}であり、∑Kk=1CFi,c(k)・DFi,c(tk)は、そのキャッシュフローから現在価値を計算しています(この際の金利変化のシナリオは本文で言及した6つのシナリオを用います。ここでiは金利変化のシナリオを指しています)。△EVEはその差分で計算しているわけですが、重要な点はCAOi,cというオプション価値の変動も考慮している点です。オプションの詳細は筆者が2020年に「ファイナンス」で記載した一連の債券オプションの文献(「日本国債先物オプション入門」)などを参照してください。△NIIは紙面の関係上省略するため、他の文献をご参照いたただければ幸いです。*23) この式はバーゼル銀行監督委員会(2016)「基準文書 銀行勘定の金利リスク」(全銀協事務局仮訳案)における「標準的なEVE手法によるリスク計測値」を参照しています。5.おわりに本稿では銀行勘定の金利リスクおよびその規制の概要について説明をしました。実際のバーゼル規制では自己資本比率規制に加え、流動性規制やレバレッジ比率規制など、様々な規制が課されています。本稿ではIRRBB規制以外については解説を省きましたが、バーゼル規制についてはすでに膨大な書籍があるため、IRRBB規制以外に係る内容にご関心がある読者は他の書籍を参照していただければ幸いです。次回はスワップションを解説する予定です。参考文献[1]. 池尾和人(2010)「現代の金融入門」ちくま新書[2]. 伊藤優・木島正明(2007)「銀行勘定金利リスク管理のための内部モデル(AA-Kijima Model)について」、『証券アナリストジャーナル』45(4),79-92.[3]. 日本銀行(2011)「コア預金モデルの特徴と留意点─金利リスク管理そしてALMの高度化に向けて─」BOJ Reports & Research Papers[4]. 服部孝洋(2020)「金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―」ファイナンス10月号、54-65.[5]. 服部孝洋(2021)「グリッド・ポイント・センシティビティ入門―日本国債およびバリュー・アット・リスクの観点で―」ファイナンス3月号、80-88.[6]. 氷見野良三(2005)「検証 BIS規制と日本」金融財政事情研究会[7]. 吉藤茂(2020)「図説 金融規制の潮流と銀行ERM―続・金融工学とリスクマネジメント」きんざい[8]. アナト・アドマティ、マルティン・ヘルビッヒ(2014)「銀行は裸の王様である」東洋経済新報社 ファイナンス 2021 Jun.69シリーズ 日本経済を考える 113連載日本経済を 考える

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