ファイナンス 2021年6月号 No.667
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Tier1資本とは、通常の会計で出てこないバーゼル規制特有の概念です。バーゼル規制は前述のとおり、金融システムの安定性に資することを目的としていることから、いわゆる会計上の資本とは別に、金融危機が起こった際のバッファーとしてどの程度機能するかという側面に着目し、自己資本を再定義しています。Tier1資本とは、具体的には資本金・法定準備金・利益剰余金などから構成され、ファイナンスの教科書で想定される株式に近い性質のものです。バーゼルIIでも、Tier1資本が求められていましたが、劣後債などもバーゼルが定義する自己資本に(一定の条件で)含まれていました(これらをTier2といいます)。例えば劣後債は負債と資本の中間的な資金調達手段といえますが、通常の株式であれば金融機関が多大な損失をした場合、配当の支払いの停止や場合によっては減資などを実施できるところ、劣後債などはそうもいきません。その意味で、普通株式などTier1資本は損失吸収力の高い資本といえます。バーゼルIIIでは、2008年に経験した金融危機の反省を経て、損失吸収力の高い株式などから構成されるTier1資本による調達をより一層求める形で、規制改革がなされました。IRRBB規制についても、国際統一基準行についてはTier1資本の一定割合に金利リスク量が収まるような規制を課しているわけです。ちなみに、図4がバーゼルIIとバーゼルIIIで比較した自己資本比率規制におけるTier1とTier2を見たものですが、バーゼルIIIではTier1資本がより一層求められていることが確認できます。この意味で、バーゼルⅢでは、損失吸収力という観点でみた資本の質の向上が求められていると解釈できます。図4の右側では、資本保全バッファーが含められていますが、国際統一基準行については、最低比率である8%に加え、危機時における社外流出等に対応するため、さらにTier1資本による調達が求められていることがわかります。なお、ここでは記載していませんが、カウンターシクリカル資本バッファーとG-SIBsサーチャージなどがさらに求められるケースがあります。図4における各種概念の説明は割愛するため、詳細が知りたい読者はバーゼルの書籍をご覧ください。図2で想定される金利の変化については数式が公表されています。例えば、スティープ化については、∆Rsteepner,c(t)=-0.65・(R̅short,c・e-tx)+0.9・{R̅long,c・(1-e-tx)}で算出します。ここで、tは時点、cは通貨、R̅short,cは「短期金利に関する金利変動幅(ベーシス・ポイント)」、R̅long,cは「長期金利に関する金利変動幅(ベーシス・ポイント)」を示します。円金利の場合、「短期金利に関する金利変動幅」と「長期金利に関する金利変動幅」は100bpsと想定されるため、例えば、20年金利については、t=20を考え、∆Rsteepner,jpy(20)=-0.65・(100・e-204)+0.9・{100・(1-e-204)}=90という形で算出されます(xは4と指定されています)。図2の(4)はこの式の年限部分に、各年限に相当する0.25から20を代入して算出BOX2 Tier1資本と自己資本比率規制BOX3 IRRBB規制に係る数式の説明図4 バーゼルIIIにおける自己資本の量の強化Tier2その他Tier18.0%4.0%自己資本8.0%総自己資本Tier16.0%Tier14.5%普通株等Tier110.5%総自己資本8.5%Tier17.0%4.5%普通株等Tier12.0%Tier2Tier2その他Tier1その他Tier1普通株等Tier1普通株等Tier1普通株等Tier1資本保全バッファー未達時には配当等を制御資本保全バッファーバーゼルII(国際基準)バーゼルIII(最低比率)バーゼルIII(最低比率+資本保全バッファー)(出所)金融庁資料より抜粋68 ファイナンス 2021 Jun.連載日本経済を 考える

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