ファイナンス 2021年6月号 No.667
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将来得られる収入(貸出や運用等)と費用(調達コスト等)のキャッシュフローを書き下したうえで、金利が変化した前後で、その現在価値を計算し、両者の差を金利変化に伴うリスクとしてみなそうというアイデアです(数式の説明はBOX3を参照してください)。直観的には、△EVEとはいわば仮に4.2節で想定した(6種類の)金利の変化が起こった場合に発生するバランス・シート上の自己資本の毀損額を算出しています。図1では金利上昇に伴い、資産と負債のデュレーションが異なることから発生する資本の毀損のイメージを示していましたが、△EVEはこの図のイメージに相当します。△EVEについては、先ほど指摘した6つのシナリオが用いられ、それぞれの金利変化シナリオごとに△EVEを計算することが求められています。△NIIも基本的に同じ発想に基づきますが、金利の変化に伴う金利収益の変化*21が算出されます(△NIIについては、パラレルシフトである2つの金利変化シナリオが用いられます*22。ΔNIIには、ΔEVEにおける15%(ないし20%)のような数値基準は設けられていません)。図3は日本政策投資銀行の開示の事例を示しています。*21) 吉藤(2020)では、「金利上昇時には利鞘の改善により期間収益は増加する」としています。*22) △NIIは銀行勘定の金利リスクのうち、金利ショックに対する算出基準日から12ヶ月を経過する日までの間の金利収益の減少額として計測します。詳細は金融庁の監督指針をご参照ください。前述の6つの金利変化シナリオに基づき、△EVEと△NIIが示されています。そのうえで、その最大値が示されるとともに、Tier1資本の額が示されています。ここでいえば、492億円が金利リスク量の最大値であり、Tier1資本の額が33,346億円ですから、金利リスク量が資本の額の15%以内に収まっていることが確認できます。図3 開示の事例(日本政策投資銀行の事例)(単位:億円)2020年3月31日ΔEVEΔNII上方パラレルシフト182下方パラレルシフト458△141スティープ化15/フラット化492/短期金利上昇185/短期金利低下26/最大値492822020年3月31日Tier1資本の額33,346(出所)日本政策投資銀行資料より抜粋日本におけるバーゼル規制の特徴は、国際統一基準行と国内基準行という区分が存在する点です。簡単にいえばグローバルで活動をする銀行を国際統一基準行としたうえで、海外と整合的な金融規制を課す一方、国内での活動にとどまる銀行を国内基準行としたうえで、国際統一基準行に対する規制と整合的でありつつ、相対的に緩い規制を課しています。IRRBB規制に関しては、国際統一基準行については2018年3月期から適用が開始された一方、国内基準行については2019年3月期から開始されました。国内基準行については、3つのシナリオ(上方パラレルシフト、下方パラレルシフト、スティープ化)のみについて計算すればよいとされており、15%が20%に緩和されているなど、国際統一基準行対比で、相対的に緩い規制内容になっています。国内基準行に対して相対的に緩い基準が課されていることについて批判的な意見があることは事実ですが、そもそも制度の目的は、グローバルにビジネスを展開する金融機関に統一的な規制を課すことや、破綻することで金融システムに大きな影響を与える金融機関に対して規制を課すというものです。その意味で日本の場合、賛否両論はありますが、海外でビジネスを行う金融機関にはグローバルで整合的な規制を課す一方で、主に国内でビジネスを行う銀行に対してはグローバルな規制と基本的に同じ設計にしつつ、日本固有の事情も考慮した規制を実施していると解釈することもできます。BOX1 国際統一基準行と国内基準行 ファイナンス 2021 Jun.67シリーズ 日本経済を考える 113連載日本経済を 考える

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