ファイナンス 2021年6月号 No.667
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金利ショックが自己資本に与える実質的な影響等について様々な観点で検証が行われ、銀行と深度ある対話を行う必要性について判断がなされます*16。さらに改善計画を確実に実行する必要があると判断された場合には業務改善命令が発出される形式がとられています*17。4.2 IRRBB規制で想定する金利シナリオIRRBB規制において大きく変わった点は、金利リスク量を算出する際に用いられる金利シナリオです(これを「金利ショック」と呼んでいます)。バーゼルIIにおけるアウトライヤー規制では、直観的には金利が200bpsパラレルにシフトしたときの金利リスク量、あるいは、過去5年に発生した金利変化をベースに金利リスク量を算出するものでした*18。一方、IRRBB規制では6つの金利シナリオを用いて金利リスク量を算出します。具体的には、(1)上方パラレルシフト、(2)下方パラレルシフト、(3)フラット化(短期金利上昇+長期金利低下)、(4)スティープ化(短期金利低下+長期金利上昇)、(5)短期金利上昇、(6)短期金利低下、というカーブの変化を想定しています。服部(2020)や服部(2021)では、デュレーションは金利変化のパラレルシフトに基づく金利リスク指標と説明しましたが、実際の金利変化はパラレルにシフトするとは限らず、イールドカーブがスティープ化やフラット化した場合、グリッド・ポイント・センシティビティなどでとらえる必要があることを指摘しました。IRRBB規制では単なるパラレルな動きだけでなく、多様なカーブの変化から金利リスク量を算出し、その中で最も大きな金利リスク量を用いた上で、(国際統一基準行については)Tier1資本の15%以内に収まるよう規制がなされています。図2は、縦軸を金利変化幅(bps)、横軸を年限としたうえで、IRRBB規制において金利リスク量を算出するうえで、どのようなカーブを想定しているかを示しています。ここでは円金利についての金利シナリオにつ*16) 詳細は金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」などをご参照ください。*17) 金融庁の監督指針において「重要性テストに該当したことをもって、銀行が過大なリスクテイクを行っているとみなされるものではない。また、オフサイトモニタリングデータの追加分析を通じて、健全性の観点から深度ある対話を行う必要があると認められる場合であっても、改善対応が自動的に求められるものではない。改善が必要とされる場合でも、金融市場への影響等に十分配慮し、改善手法や時期等が適切に選択されるよう、留意して監督を行うものとする」とされています。*18) 具体的は、銀行は標準的金利ショックとして、「(1)上下200ベーシス・ポイント(2%)の平行移動」と「(2)保有期間1年、最低5年の観測期間で計測される金利変動の1パーセンタイル値と99パーセンタイル値」のどちらかを選択することになっていました。*19) 吉藤(2020)は「各通貨の2000年から2016年までの時系列データをもとに設定されたものであり、今後、定期的にレビューされる」と説明しています。*20) ΔEVEの定義については、バーゼル銀行監督委員会(2016)「基準文書 銀行勘定の金利リスク」(全銀協事務局仮訳案)を参照してください。いて紹介しています。例えば、(1)と(2)については上下に100bps変化した結果を示しています。(3)フラット化については短期金利が50bps程度上昇し、長期金利が50bps程度低下するシナリオである一方、(4)スティープ化は短期金利が50bps程度低下し、長期金利は100bps程度上昇するシナリオです(この部分の算出方法についてはBOX2を参照してください)。ここでは円金利について紹介していますが、ドル金利やユーロ金利では(1)と(2)については200bpsが採用されるなど、過去のヒストリカルデータを参照し、通貨ごとに異なる水準が用いられている点に注意が必要です*19。図2 IRRBB規制における金利シナリオ(bps)-150150100500-50-1000.250.752468101214161820(年)(1)上方パラレルシフト(2)下方パラレルシフト(3)フラット化(4)スティープ化(5)短期金利上昇(6)短期金利下落4.3 △EVEと△NIIIRRBB規制のもう一つの特徴は、金利が上昇した際、単に国債に与える損益だけでなく、銀行に与える影響を多面的にとらえている点です。IRRBB規制では、具体的には、△EVE(Economic Value of Equity)と△NII(Net Interest Income)という概念が導入されています(実務家は「デルタEVE」、「デルタNII」と呼びます)。△EVEとは、金融庁の監督指針において「銀行勘定の金利リスクのうち、金利ショックに対する経済的価値の減少額として計測されるもの」と定義されており、一見すると直観的な理解がしにくいかもしれません。△EVEはバーゼルの文章*20において数式で定義されていますが、その意味するところは、銀行が66 ファイナンス 2021 Jun.連載日本経済を 考える

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