ファイナンス 2021年6月号 No.667
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第二の柱では、「コア預金」と呼ばれる概念を導入してこの預金のデュレーションを考えます。「コア預金」とは「明確な金利改定間隔がなく、預金者の要求によって随時払い出されうる預金のうち、実態としては引き出されることなく長期間銀行に滞留する預金」(佐藤 2007,P.205)と定義されています。第二の柱では、コア預金という概念を導入したうえで、それを一定の計算式で推定することで、そのデュレーションを算出しています。本稿では「コア預金」の詳細については立ち入りませんが、バーゼルのルールではコア預金を算出するうえで、シンプルな方法(標準的手法)とモデルを使ってデュレーションを推定する方法(内部モデル法*12)が用いられています*13。実際には標準的手法と内部モデルを用いている銀行が併存しているのですが、コア預金の詳細を知りたい人は日本銀行(2011)などを参照することをお勧めします。4. 銀行勘定の金利リスク(IRRBB)規制の概要4.1 基本的な考え方ここから銀行勘定の金利リスク(IRRBB)規制*14の具体的な内容について考えていきます。前述のとおり、銀行勘定の金利リスク規制の導入は第二の柱が導入されたバーゼルIIからです。銀行勘定の金利リスク規制については、当初、「アウトライヤー規制」と呼ばれていました。アウトライヤー規制では、一定のルールに基づき算出した(資産サイドだけでなく負債サイドも加味した)金利リスク量が自己資本の20%に収まっているかどうかをモニターするというものでした。すなわち、金利リスク量自己資本≤Xというルールであり、X=20%のケースが用いられていたわけです。例えば、自己資本が1000億円の場合、*12) 実務的には、伊藤・木島(2007)のモデル(いわゆるAA-Kijimaモデル)などが用いられています。*13) 金融庁の指針では、「銀行が、銀行勘定の金利リスクを計測する際には、重要性に応じて、いわゆる行動オプション性(流動性預金の滞留、固定金利貸出の期限前返済、定期預金の早期解約、個人向けの金利コミットメントラインの実行等、金利変動に対する顧客の必ずしも経済合理性のみに基づかない行動変化がキャッシュフローに与える影響)を、内部モデルの使用又は保守的な前提の反映により適切に考慮することを求めるものとする」としています。*14) 実務的には、IRRBBだけで「銀行勘定の金利リスク」に対する規制を意味することが多いのですが、IRRBBは「銀行勘定の金利リスク」そのものを指すため、本稿ではIRRBB規制という表現を用いています。*15) 国際統一基準行について、2018年3月期から、銀行勘定の金利リスクが「Tier1資本の15%」を超えていないか、国内基準行については、2019年3月期から、銀行勘定の金利リスクが「自己資本の20%」を超えていないかモニタリングがなされています。その20%である200億円以下になるよう金利リスク量を抑えることが求められていました(以下では、金利リスクの金額について記載する際、「金利リスク量」と記載します)。再度強調しますが、この規制のアイデアは、リスクをとってもよいと考えている投資家から調達した資金を自己資本と解釈したうえで、金融機関が有している金利リスク量がその20%に収まっているのであれば、金利リスクに関して健全な運営をしていると評価するというものです。アウトライヤー比率規制では、もし仮に金利リスク量が自己資本の20%を超えた場合、当該銀行を「アウトライヤー行」としたうえで、規制当局からワーニングを発するという運用がなされていました。直近では、銀行勘定の金利リスクに関する規制を指す場合、IRRBB規制という表現を使うことが多く、アウトライヤーという表現はあまり使われなくなっていますが、規制の骨格に変化はありません(本稿でIRRBB規制と書いた場合、現在の銀行勘定の金利リスク規制を念頭に議論をしています*15)。前述のとおり、金利リスク量が自己資本を一定程度超えた場合は、当局はワーニングを発するわけですが、IRRBB規制では、国際統一基準行と国内基準行で分けた運用がなされています(両者の違いについてはBOX1を参照)。国際統一基準行の場合、自己資本の定義にTier1資本を用いたうえで、「金利リスク/Tier1資本≦15%」というルールが採用されています(Tier1資本についてはBOX2を参照)。一方、国内基準行に対しては自己資本に対して、Xを20%としています。これらのルールはIRRBB規制において「重要性テスト」と呼ばれています。なお、金融庁は、金融機関の健全性をチェックするため、「オンサイト・モニタリング」と呼ばれる立入調査に加え、ヒアリングや資料提供である「オフサイト・モニタリング」を行っています。IRRBB規制では、上記の規制に抵触すると、「オフサイト・モニタリングデータの追加分析」の対象となります。「追加分析」では、 ファイナンス 2021 Jun.65シリーズ 日本経済を考える 113連載日本経済を 考える

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