ファイナンス 2021年6月号 No.667
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きだということです。服部(2020)で記載したとおり、金融機関は単に資産サイドだけでなく、負債サイドの金利リスクも考えてリスク管理をしています(これをAsset Liability Management(ALM)といいました)。そのため、単に資産サイドの年限(デュレーション)が長いからといって、ただちに金利リスクが大きいということにはなりません。銀行の場合、主に預金で調達しているがゆえ負債サイドの年限が短い構造にありますが、例えば、仮に満期の長い定期預金ばかりで調達する銀行があれば、その銀行の負債サイドのデュレーションは長いと解釈できます。その意味で、銀行の有する金利リスクを正しく判断するには資産サイドだけでなく負債サイドのデュレーションも考える必要があるわけです。図1が銀行の伝統的なビジネスを行う際、金利が上昇することに伴う銀行のバランス・シートへの影響を示しています。金利が変化することによって国債などの資産価格が変化することは服部(2020)で説明しましたが(その際、金利変化のデュレーション倍価格が動くわけですが)、仮に金利が上昇すると、右図のような形で資産および負債の現在価値が低下することになります。銀行は基本的に資産サイドのデュレーションが負債サイドのデュレーションより長いため*10、金利が変化した場合、資産サイドの価格の低下(図では10%の下落)の方が、負債サイドの低下(図では8.3%の下落)より大きく、金利の上昇により資本が棄損(図では「資本の現在価値(経済価値)」に相当。この詳細は4節で説明します*11)することになります。*10) 後述のコア預金の考え方を取り入れた場合には必ずしもこうとは限らない点に注意が必要です(下方パラレルシフトが最大のΔEVEを生むシナリオとなることもありえます)。*11) この図における「資本価値から負債価値を引いた資本の経済価値が下落」がΔEVE、「バランスシートから得られる金利収益が増加し、資本が増加」がΔNIIに相当します。ΔEVEとΔNIIは、4.3節で詳細に説明します。逆に言えば、資産側と負債側のデュレーションがぴったりと一致していれば、金利の(パラレルな)変化に伴う資産と負債の変化は同額になりますから、図1における資本の現在価値(経済価値)の変化はないということになります。現実的に資産と負債のデュレーションが完全に一致するということはほとんどありませんが、資産と負債のデュレーションのミスマッチから発生するバランス・シートの変化に対して、当該銀行が十分な自己資本で調達していれば金利リスクに対して健全な対応がなされていると解釈することができます。第二の柱では、詳細は後述しますが、銀行勘定で有する金利リスクの一定以上を自己資本で資金調達することを銀行に求めることで、金利リスクに対して健全な運営を担保しているわけです。3.3  銀行の負債サイドのデュレーションの推定:コア預金の考え方前述のとおり、銀行勘定の金利リスクとは資産と負債に係る金利リスクでしたが、これまで筆者による金利リスクの文献(服部(2020)など)を読んでくださった読者にとって、(国債を保有するなど)資産サイドの金利リスクについては比較的にイメージしやすいと思います。一方、銀行の場合、主に預金で資金調達を行いますが、預金のデュレーションはどのように考えればよいでしょうか。例えば、定期預金のように、年限が決まった預金はデュレーションの算出が簡単ですが、問題はすぐに引き出すことができる預金(流動性預金)の取り扱いです。実は銀行の預金の大部分は流動性預金であり、ここのデュレーションの算定が負債サイドのデュレーションを見積もるうえでのポイントになります。素朴に考えれば流動性預金はいつでも引き出すことができるため、デュレーションは0と考えることもできます。しかし、実際にデータをみると、たとえ金利が上昇したとしても直ちに預金が引き出されることはなく、その意味で、流動性預金はある程度の期間滞留した預金とみることもできます。実際に読者も金利が動いたとしてもすぐに預金を引き出したりしないことに実感があるはずです。図1 金利上昇が銀行のバランス・シートに与える影響資産の現在価値100・貸出金(法人向け)(住宅ローン)  …・有価証券(国債)(仕組債)  …資産価値から負債価値を引いた資本の経済価値が下落バランスシートから得られる金利収益が増加し、資本が増加負債の現在価値60・預金(普通預金)(定期預金)  …資本の現在価値(経済価値)40資産の現在価値90(10%下落)負債の現在価値55(8.3%下落)資本の現在価値(経済価値)35(出所)金融庁資料より抜粋金利上昇※一般的に銀行の資産の満期 は長く、負債の満期は短い。64 ファイナンス 2021 Jun.連載日本経済を 考える

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