ファイナンス 2021年6月号 No.667
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たが、金利リスクを自己資本比率規制に盛り込むかは度々議題に挙がっています。バーゼルIIについても、氷見野(2005)は、「『過大な金利リスクを負っている銀行には自己資本を賦課する』という構想は、6年後、新BIS規制(バーゼルⅡ)の第1次案(99年)で再登場するが、2001年の第2次案では再び『極端な金利リスクをとっている場合には何らかの監督上の対応が必要だが、対応は追加的な自己資本の賦課に限られるものではない』というラインに戻る」(p.122)と指摘しています。2008年の金融危機を受けてバーゼル規制が大幅に見直される中で、再度、銀行勘定の金利リスクについても第一の柱に含められるという議論がなされました。事実、バーゼル委員会による2015年6月の市中協議文書では、銀行勘定の金利リスクが自己資本比率規制に含まれる「第一の柱」案と、あくまで監督上で取り扱う「第二の柱」案の両論が併記されました*7。2015年当時は、銀行勘定の金利リスクを第一の柱で取り扱うことに伴う弊害が多いとの懸念が邦銀等から示され、大きな話題となりました。最終的には銀行勘定の金利リスクは第一の柱ではなく、第二の柱で取り扱われることとなり、現在に至っています。3. 第二の柱と銀行勘定の金利リスクの考え方3.1 第二の柱とは前述のとおり、第二の柱とは、第一の柱では捉えられないリスクを捕捉するイメージです*8。3つの柱はバーゼルIIから導入されたのですが、バーゼルIIの特徴の一つはリスク・アセット計測に内部モデルを認めた点にあります。1990年代から2000年にかけて金融機関のリスク管理の技術が大幅に向上したわけですが、当時導入されていた画一的な規制は、実態に即していないだけでなく、リスク管理の高度化を阻害する可能性を有していました*9。服部(2021)ではバリュー・アット・リスク(VaR)について触れましたが、1990年代から、VaRが金融機関のリスク管理に*7) 詳細は吉藤(2020)などを参照してください。*8) 佐藤(2007)では、「第2の柱の下では、第1の柱のプロセスによっては十分に捉えられないリスクを取り扱うことが適しているとしており、具体的には、銀行勘定の金利リスクや信用集中リスクなどを、主要なリスクとして例示している」(p.192)としています。*9) このあたりのバーゼルIIに至る問題意識については、佐藤(2007)が3章で詳細に説明しています。詳細は同書を参照してください。おいて普及し始めました。デリバティブなど金融の技術革新が大幅に進んだ時期も1990年代です。このような高度化を受けて、バーゼルの規制は内部モデルの使用を一定程度認めることでリスク・アセット測定の精緻化を図る一方で、第2の柱で、内部モデル仕様にかかる監督上の検証、さらに第3の柱で情報開示を促すことで市場規律が働く仕組みが導入されたわけです。佐藤(2007)では、第二の柱について、「各銀行が自己資本比率規制という当局が設定するミニマム・スタンダードを遵守するだけでは足りない」(p.191)としたうえで、「各々の銀行が自行のリスクを包括的に把握して的確なリスク管理を行い、その状況を当局がタイムリーに検証する、という組み合わせが必要」(p.191)と説明しています。佐藤(2007)では、監督上の検証が必要な具体例として、銀行勘定の金利リスクや信用集中リスクを指摘しています。3.2 銀行勘定の金利リスク規制とは第二の柱で規制されている金利リスクについては、「『銀行勘定』の金利リスク」という独特の言い回しが用いられます。筆者の実感では、銀行に対する金利リスク規制に関し、この表現が当初理解しにくい部分です。というのも、銀行勘定とは「伝統的な預貸金取引や投資有価証券取引等を行うための勘定」(p.201、佐藤 2007)と定義されており、短期的な売買差益の確保を目的に行うトレーディング勘定に対比した表現です。もっとも、実際的には、銀行によって時には短期的な売買がなされる国債のトレーディングも銀行勘定として取り扱われることがあります。また、有価証券運用において(資産サイドに係る)銀行勘定の金利リスクといった場合、実務家は会計区分である「満期保有目的債券」と「その他有価証券」で保有する有価証券を指すことが少なくありません。筆者がまず強調したい点は、「銀行勘定における金利リスク」といった場合、「銀行の伝統的なビジネスに関し、資産サイドだけでなく預金などの負債サイドも含めた金利リスクをみている」という印象を持つべ ファイナンス 2021 Jun.63シリーズ 日本経済を考える 113連載日本経済を 考える

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