ファイナンス 2021年6月号 No.667
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機以降の規制改正の中で、自己資本の定義を見直すとともに、流動性規制やレバレッジ比率規制など新たな規制が導入され、現在はバーゼルIIIと呼ばれています。2.3 三つの柱と銀行勘定の金利リスク規制現在のバーゼル規制は3つの軸で構成されており、「柱(pillar)」というバーゼル特有の言い回しが用いられます。第一の柱が「最低所要自己資本比率」であり、これまで言及してきた自己資本比率規制になります。第二の柱が「金融機関の自己管理と監督上の検証」です。金利リスク規制はこの第二の柱に含まれるのですが、第一の柱で捕捉できないリスクについて規制当局がモニタリングするものです。第三の柱は「市場規律」(情報の開示)であり、銀行に対して開示を求めることで市場規律を働かせることが企図されています(この3つの柱はバーゼルIIの時に導入されましたが、その時の経緯は後述します)。銀行が日本国債に投資する場合、第一の柱に相当する自己資本比率規制において日本国債はリスク・アセットがゼロと取り扱われています*5。つまり、銀行がいくら日本国債への投資を増やしたとしても、「自己資本/リスク・アセット(=自己資本比率)」における分母は増加しないため、自己資本比率は低下しません*6。例えば、ある銀行が日本国債への投資を1兆円仮に増やしたところで、「自己資本比率」には何ら影響を与えないことになります。バーゼルにおける自己資本比率規制は、銀行が有しているリスクに対して一定の自己資本を求めるものですから、国債のように安全性の高い資産については、追加的な自己資本は求められていないわけです。もっとも、服部(2020)で説明したとおり、国債にはデフォルトという信用リスクはないとしても、金利の変動に伴う金利リスクは存在します。例えば、金融機関が10年国債と20年国債を比較した場合、10年国債のデュレーションがおおよそ年限に相当する10であり、20年国債のデュレーションがおおよそ20であることを考えると、20年国債は10年国債に対し*5) 現在、銀行の自己資本比率に係るバーゼル規制において、自国通貨建ての国債は、格付にかかわらず、信用リスクをゼロにすることができる(各国裁量)ことになっています。また、ここでは銀行が国債を銀行勘定で保有することを想定しています。トレーディング勘定においては、金利リスクは「マーケット・リスク相当額」として第一の柱で捕捉されています。*6) 標準的手法では信用リスク・アセットの額の算出に当たって、「与信等の額×所定のリスク・ウェイト」という取り扱いがなされていますが、日本国債のリスクウェイトは0という取り扱いがなされています。て、おおよそ2倍の金利リスクを有するといえます(正確にはそれぞれ10と20から乖離するのですが詳細は服部(2020)を参照してください)。もっとも、第一の柱において国債はリスク・アセットがゼロという取り扱いがなされていることから、第一の柱においては、10年債に投資しても、20年債に投資しても、結局リスク・アセットはゼロとなります。強調したいことはバーゼル規制において銀行が国債を保有することに係る金利リスクを無視しているわけではなく、金利リスクについては第二の柱で別途捕捉されているということです。その意味で、日本国債にかかるバーゼルの規制の主軸は第二の柱だといっても過言ではありません。後述しますが、第二の柱では、一定のルールで金利リスク量を算出したうえで、その金利リスクが自己資本の一定割合に入るよう要請する一方、その基準から外れた場合は当該金融機関に対しワーニングを発する形で規制がなされています。2.4 銀行勘定の金利リスクの歴史的経緯このように規制の主軸である自己資本比率規制では銀行勘定の金利リスクに対する規制が存在しませんが、それに対して疑問に思う読者もいるかもしれません。服部(2020)で記載したとおり、投資する国債の年限が異なれば、金利リスクは異なりますから、それも自己資本比率規制に含めるべきだという議論も正しいように思えます。そもそも自己資本比率規制の中に金利リスクを含めるかどうかは歴史的にも様々な形で議論されてきました。バーゼル規制導入時において、氷見野(2005)は「バーゼル委員会が『ある程度の金利ミスマッチは銀行業務の正常な姿である』として、自己資本賦課不要との結論に達した基本的な理由は、信用リスクと金利リスクの逆相関に関する監督者としての経験にあった」(p.121-122)としています。また、預金の金利リスクの測定など、金利リスクを「自己資本比率の分母に盛り込むことは技術的にも困難だった」(p.122)としています。その後のバーゼル規制は改正が繰り返されてきまし62 ファイナンス 2021 Jun.連載日本経済を 考える

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