ファイナンス 2021年6月号 No.667
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html銀行勘定の金利リスク(IRRBB)入門―バーゼル規制からみた  金利リスクと日本国債について―東京大学 公共政策大学院/財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1.はじめに筆者は「金利リスク入門」や「コンベクシティ入門」など、これまで複数回にわたり金利リスクの基礎について説明してきました。金利リスクの概念は様々な場面で用いられますが、本稿ではその応用編として、特に銀行の有する金利リスクについて、金融規制の観点から議論を深めます。我が国では家計金融資産の半数を預金が占めていることからもわかる通り、銀行が金融システムにおいて大きな役割を果たしています。銀行は企業への貸出を主要業務にしていますが、1990年以降、日本経済が低迷する中、貸出ではなく、主に国債への投資を中心とした有価証券運用を積極化させました。我が国では国債市場特別参加者制度(プライマリー・ディーラー)に大手銀行が含まれているなど、国債の消化において銀行が長年重要な役割を果たしています。資金調達を行う政府から見れば、国債の主要な投資家である銀行がどのような環境に置かれているかを理解することは安定的な資金調達を行う上で非常に重要です。銀行にとってリスク管理は安定的な経営などの観点で大切ですが、そもそも当局から課される金融規制という観点でも適切なリスク管理が求められています。特に銀行の場合、預金という決済性を持つ金融商品を取り扱うがゆえ、社会的にみても公共性の高いサービスを提供しており、より一層高い規制が課されています。本稿では銀行に課されている規制の中でも国債市場と関連性の高い銀行勘定の金利リスク(Interest Rate Risk in the Banking Book, IRRBB)規制に焦点を当てて説明をします。なお、本稿では「金利リスク入門」や「コンベクシティ入門」など筆者が金利リスクの基礎について取り扱った一連の文献を前提とするため、そちらもご参照いただければ幸いです。2. バーゼル規制における金利リスク規制について2.1 銀行規制の背景前述のとおり、我が国では預金が家計金融資産の半分を占めており、日本の金融システムの大きな特徴といえます。このことは、銀行が金融システムにおいて大きな役割を果たしていることを意味しますが、その一方で、我が国では長年、国債の消化において銀行が大きな役割を果たしてきたとみることもできます。1990年以降、銀行は預金に対して貸出を低下させる一方で、国債を中心とした有価証券運用を強化してきました。実際、国債の安定消化において銀行が果たしている社会的な役割は看過できないといえましょう。銀行は預金と呼ばれる公共性の高い金融商品を提供しています。金融のテキストでも、預金を取り扱う金融機関(いわゆる預金取扱金融機関)とその他の金融機関で大きな区分がなされています。では、そもそも113*1) 本稿の作成にあたって、黒崎哲夫氏(日本銀行)、毛利浩明氏より有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。60 ファイナンス 2021 Jun.連載日本経済を 考える

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