ファイナンス 2021年6月号 No.667
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点に市の中心機能を配置することで、南北に分かれた都心の一体化を図っている。新庁舎のオープンに合わせ区役所に面する参道を歩行者専用にした。沿道のオープンカフェがケヤキ並木の風景に溶け込んでいる。氷川参道の周囲は元々静かな住宅地でとくに西側は都市型マンションが多い。生活エリアに緑豊かな散歩道ができ、図書館やカフェ・レストランが充実するなどしてエリアの魅力が高まることが期待されている。氷川参道に沿って大宮区役所の隣に市民ホールがあるが、大宮中央デパートのあった場所に移転する予定だ。中山道、中央通の交差点北東角の区画の再開発が進捗中で、18階建の複合ビルが来年開業する。4~9階に移転後の市民ホールが入る以外は5階まで商業フロア、10階以上はオフィスとなる予定である。移転に伴って空いた旧区役所、旧図書館、空く予定の市民ホールの跡地の活用策を将来ビジョンに照らし検討している。昨年、一の鳥居近くの旧図書館の活用法が決まった。事業主体の民間グループは市から旧図書館を定期賃借権方式で借り受け、1階に地元食材レストランや屋外マルシェ等、2階はオフィスや保育施設等が入居する複合施設にリノベーションする。大宮ブランド発信、地域ビジネス活性化および観光拠点となることを目指し今秋にオープン予定だ。大宮駅と一の鳥居を結ぶ一の宮通りは氷川神社への動線であるとともに、美容室や個性的なショップが並ぶエリアでもある。氷川参道を公園化した「平成ひろば」に沿って中層マンションが林立する。旧図書館のリノベーションによって都市型ライフスタイルに合ったエリアの一体性が高まることも期待される。平成31年、大宮公園グランドデザイン検討委員会の報告書が公表された。地域戦略において都市公園が重要な意味を持つ。大宮公園はもともと氷川神社の境内地で戦前は氷川公園と称していた。開園は明治18年(1885)と大宮駅が開業した年に遡る。大宮駅の設置を請願するにあたって駅の集客拠点とする目論見があっただろうことは想像に難くない。東屋やベンチの他、2階建の休憩所「含翠亭」を整備した。古い地図を観ると万松楼、八重垣、石州楼など料亭らしい店もある。正岡子規や太宰治はじめ文人が好んで訪れたそうだ。県内有数の花見の名所でもある。昭和8年(1933)には児童遊園地、その翌年には野球場が完成。ベーブ・ルースらと日米親善野球をした。昭和28年(1953)に小動物園、昭和35年(1960)にはサッカー場ができた。平成19年(2007)に改修。J2大宮アルディージャのホームでもある。住民の憩いの場であると同時に開設当初からの観光拠点で、スポーツ・レジャー拠点でもあった。氷川参道を軸とした街の再構成一の鳥居から氷川神社までおよそ2kmにわたる氷川参道は木漏れ日が気持ち良いケヤキ並木の散歩道だ。そして大宮の発祥から現代そして未来に渡って不動の南北軸でもある。軸の北端には大宮公園があって武蔵一宮氷上神社が鎮座し、南端にはさいたま新都心が求心力を放つ。氷川参道の南北両端からほぼ等距離の地点には、首都圏の玄関口たる大宮駅がある。軸線とその北と南と西に位置する拠点が街の一体感を生み出している。鉄道開通に端を発し、製糸業が盛んになって街が拡大。その後製糸業は衰退して跡地に新たな街ができた。いったん分散したかのように見えた拠点が不動の都市軸に回帰することで再び一つにまとまった。プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。専門は地域経済・金融図3 歩道化された参道に沿ってオープンカフェが増えている(出所)筆者撮影 ファイナンス 2021 Jun.59路線価でひもとく街の歴史連載路線価でひもとく街の歴史

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