ファイナンス 2021年6月号 No.667
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副業・兼業に消極的であった企業・副業・兼業を希望する者が増加している一方で、内閣府の昨年12月時点の調査によれば、企業が副業を許容している割合は全体の3割程度と、企業側が副業・兼業を認めていないケースが多い。企業規模が大きいほどその傾向が強く、「生産性や売上が落ちると考えているから」、「利益相反や情報漏洩を懸念しているから」、「労務管理が困難だから」などが主な理由である(図表8、9)。・他方で、従来のように、OJTを通じた従業員教育だけではなく、最近では特に規模が大きい企業において、働き手が自ら能力開発を行う傾向が強まっている(図表10)。こうした動きは、副業・兼業による能力の有効活用や、それを通じた働き手のスキルアップが今後重要になっていく可能性を示唆している。図表8 副業が禁止されている割合全体2~29人30~299人300~999人1,000人以上020406080100(企業規模別)n=10,128人(%)許容されている例外的に許容されている(原則禁止)禁止されている制度を知らない・わからないその他許容・禁止が曖昧である図表9 企業が副業を禁止する理由 (副業が禁止、又は原則禁止の雇用者)n=10,128人生産性や売上が落ちると考えているから利益相反や情報漏洩を懸念しているから労務管理が困難だから(通勤手当、労災の適用範囲等)副業をどの程度許容して良いか判断がつかないから人材流出の懸念があるからその他わからない010203040(%)図表10 労働者の能力開発方針 (300人以上規模)AであるAに近いBに近いBである6050403020100(%)2016年(n=133社)2020年(n=132社)A:企業主体で決定/B:労働者個人で決定副業・兼業をめぐる今後の展望・前述の企業の懸念事項に関して、厚生労働省は昨年「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、副業・兼業の場合における企業と労働者の一般的な対応を示した(図表11)。・さらに、同年「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立しており、副業・兼業に関する環境は着々と整備されている。今後は、フリーランスとして働く人に対する労災保険の特別加入制度の適用拡大など、副業・兼業をする労働者全体をどのように保護するべきか検討していく必要がある(図表12)。・また、副業・兼業をしない理由として「体力的に余裕がないから」、「時間がないから」が多いことから、企業は副業・兼業に限らず、例えば時短正社員や週休3日制などの新しい働き方にも柔軟に対応することが重要である(図表13)。副業・兼業は、従業員の能力開発の機能があり、また、雇う企業にとってみれば、副業・兼業をする労働者は新たな知見をもたらし、イノベーションの萌芽となり得る。多様な働き方を許容することが、結果として副業・兼業を容易にし、中長期的には多くの企業にとってメリットを生む可能性がある。図表11 副業・兼業の場合の留意点①安全配慮義務労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされており(安全配慮義務)、副業・兼業の場合には、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負っている。②秘密保持義務労働者は、使用者の業務上の秘密を守る義務を負っている(秘密保持義務)。③競業避止義務労働者は、一般に、在職中、使用者と競合する業務を行わない義務を負っていると解される(競業避止義務)。④誠実義務誠実義務に基づき、労働者は秘密保持義務、競業避止義務を負うほか、使用者の名誉・信用を毀損しないなど誠実に行動することが要請される。図表12 「雇用保険法等の一部を改正する法律」の主な改正内容労災保険・複数就業者について、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する。・複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う。・副業先への移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となる。雇用保険・令和4年1月より、65歳以上の労働者本人の申出を起点として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始される。図表13 副業をしない理由50403020100(%)過去に副業経験あり(n=166人)副業未経験(n=693人)体力的に余裕がないから時間がないからやりたい副業がないから本業の業務に支障をきたすから会社で禁止されているから高い収入を得られるイメージがないから会社の上司や同僚から嫌がられるからその他(出典)総務省「就業構造基本調査」、内閣府「第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」、厚生労働省「毎月勤労統計」、「賃金構造基本統計調査」、「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」、ランサーズ「在宅勤務推奨時における副業・複業者のサービス利用状況調査」、日本総研「望ましいフリーランスの普及に向けて-国際比較を踏まえた政策対応」、Human Capital Online「独自ジョブ型に移行。和洋折衷で専門性とチームワーク両立~資生堂」、「ニトリ、三菱ケミカルーー“ジョブ型”の成否はキャリア自律にあり」、日本経済新聞「日立、ジョブ型インターン 来年度から」、富士通、KDDI、SOMPOホールディングス、労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(企業調査、労働者調査)、「労働保険におけるマルチジョブホルダーへの対応のあり方」、楽天インサイト「副業に関する調査」、海老原 嗣生「人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~」、柳川 範之「日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2021 Jun.53コラム 経済トレンド 84連載経済 トレンド

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