ファイナンス 2021年6月号 No.667
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コラム 経済トレンド84大臣官房総合政策課 祖父江 渉/野口 友菜副業・兼業の現状と今後本稿では、近年希望者が増加している副業・兼業について考察する。副業・兼業の現状・近年、副業・兼業を希望する者が増加傾向にある(図1)。・副業・兼業をしている理由として、副業・兼業をしている者の半数以上が「収入を増やしたいから」としており、金銭的な理由が多くみられる中、「自分で活躍できる場を広げたいから」、「様々な分野の人とつながりができるから」、「現在の仕事で必要な能力を活用・向上させるため」といったキャリア形成や自己啓発のために行う層も存在している(図表2)。・また、足下では新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるリモートワークの普及や休業・失業に伴う余暇の増加によって、副業・兼業を始めた者が増加したと考えられる(図表3、4)。図表1 副業希望者の推移5,60007.04,8006.04,0005.03,2004.02,4003.01,6002.08001.00.0199219972002200720122017(千人)(%)(年)副業希望者数有業者に占める副業希望者の割合図表2 副業・兼業をしている理由6050403020100(%)社会貢献のため仕事を頼まれ、断りきれなかったから本業の性格上、別の仕事を持つことが自然だから副業の方が本当に好きな仕事だから時間のゆとりがあるから現在の仕事で必要な能力を活用・向上させるため様々な分野の人とつながりができるから自分で活躍できる場を広げたいから独立したいから転職したいからローンなど借金や負債を抱えているため収入を増やしたいから1つの仕事だけでは収入が少なすぎて、生活自体ができないからn=15,385人働くことができる時間帯に制約があり、1つの仕事で生活を営めるような収入を得られる仕事に就けなかったから図表3 現金給与総額の推移所定内給与所定外給与特別給与総額▲4.04.02.00.0▲2.01357911135791113201920202021(一般労働者の前年同月比に対する寄与度、%)(注)共通事業所ベース。図表4 副業を始めた時期2020年2月以降30.8%2020年2月以前69.2%n=1,490人日本型雇用の変容・近年、副業・兼業を希望する者が増加している背景に、急激な産業構造の変化や人生100年時代に伴う日本型雇用の変容が要因として考えられる。・「日本型雇用システム」は、長期雇用を前提とした新卒一括採用・年功序列型賃金・人事配置や労働時間管理に関する雇主側の広範な裁量性等の特徴を持ち、労働者は一つの企業で職務転換や転勤といった配置転換を繰り返し経験し、長く勤めることが一般的であった(図表5)。・しかし、近年ではグローバル化やデジタル化の進展に伴う産業構造の変化や労働力人口の高齢化等に起因して、賃金カーブのフラット化や企業がジョブ型雇用を取り入れる動きがみられている(図表6、7)。・その結果、副業・兼業を通じた、収入源の多様化、新たなスキルの獲得、スキルのアップデート等に労働者が積極的になっていると考えられる。図表5 日本型雇用とジョブ型雇用の比較日本型雇用ジョブ型雇用採用・新卒採用が基本。・潜在力、社風への合致等を重視。・欠員補充が基本。・職務経験・スキルを重視。育成・OJTが基本。・社内研修は階層別に一律で実施することが多い。・教育機関との連携、インターン、有期雇用での実務経験。配置・社内グループ内での異動が基本。・職種転換も頻繁に発生する。・転職・再就職による。・同一職種での転職が多い。図表6 フラット化する賃金カーブ75200175150125100(各年の20~24歳=100)2000年2005年2010年2015年2020年20~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~64図表7 大手企業のジョブ型雇用導入例企業例内容資生堂国内の一部の管理職に2015年から導入し、2021年1月から一般社員約3800人にも拡大日立製作所2021年度から、ジョブディスクリプションを学生に明示した上で長期かつ実務経験型のインターンシップを実施2021年9月までにすべてのポストにジョブディスクリプションを整備予定富士通2020年4月、幹部社員約15000人を対象に導入一般社員への拡大に向け、2020年度から労働組合との検討開始KDDI2020年8月入社の中途社員及び2021年度入社の新卒社員に順次導入管理職にも2021年度から導入予定三菱ケミカル2020年10月から管理職約5000人、2021年4月から一般社員約12000人に導入SOMPO2020年4月に一部社員、2021年4月から持株会社の部長職に導入52 ファイナンス 2021 Jun.連載経済 トレンド

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