ファイナンス 2021年6月号 No.667
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ンテーションを通じて質問や懸念に丁寧に答えている。また、毎日全職員宛てにメールで発信される社内報ADB-Todayやイントラネット上に設けた特設サイトでの情報共有については、前号で触れた通りだ。さらに、広報部の主導で、孤独感やストレスがたまりがちな在宅勤務において、気分転換をしたり、仕事の生産性を上げたりするための「ちょっとした工夫」を、有志のスタッフや幹部がユーモアたっぷりに発信する動画「Your WFH (Work From Home)Story」も作成・配信されている。また、各種手当についても、総裁と予算・人事システム局の幹部が中心となって熟議を重ね、柔軟化や拡充が図られてきた。例えば、インターナショナル・スタッフを対象とする教育手当や住居手当は本人が勤務地(マニラ)で勤務することが支給の前提であるが、約4割のインターナル・スタッフが長期にわたり勤務地外勤務を選択していることを踏まえ、この要件を時限的、例外的に外した*26。これでスタッフ本人が勤務地外にいても、手当を受け取り、子供の教育費やマニラで空き家状態になっている家の家賃に充てることができる。ローカル・スタッフについては、在宅勤務に伴って嵩む電気代、インターネット代や、新たに必要となった業務用のいすや机の購入等のために、四半期に一度200ドルの特別手当を支給することを2020年5月に上旬に決定した。ローカル・スタッフの中には、共働きで家計を支えてきたパートナーが、COVID19に伴うロックダウン等の影響で失業してしまった者もいることにも配慮しての措置だ。また、ステージ2、ステージ3と移行していくにあたり出勤が求められるローカルスタッフに対しては、出勤時の感染リスクを抑えるためにタクシーやグラブでの出勤を奨励、これに係る交通費については補助を出している。さらに浅川総裁は、2021年2月に全職員に対して発信した「President Planning Direction」の冒頭で「スタッフの福利がマネージメントにとって引き続き最優先課題」と明記し、各局の管理職には、スタッフのワーク・ライフ・バランスに厳に留意しつつ、業務計画を作るよう求めた。その際、「Project quality is more important than volume(プロジェクトの量よ*26) 本例外措置は2020年6月に発効。当初は2020年末までであったが、その後2021年7月末に延長され、2021年2月末には、2022年7月末まで再延長することが決定、アナウンスされている。り質が重要)」とのメッセージも発信し、従来必ず盛り込まれていた、各局別のコミットメント額やディスバースメント額等のボリュームに関する数値目標の設定を見送っている。こうしたマネジメントの取組みの甲斐もあり、昨年10月に実施した職員等向けアンケートでは、日々厳しい環境下で奮闘をするスタッフの80%が「ADBでの仕事に今まで以上にやりがいを感じる」、83%が「ADBはスタッフのニーズに人事政策や手当を通じて柔軟に対応している」と回答している。しかし、危機は長期化、日常化している。そして、昨年末からは、安全で効果のあるCOVID19ワクチンを、可能な限り迅速に、そして公平に、途上国の人々に届けるという、新しい課題が浮上。ADBはこの課題にも立ち向かい、途上国ととともに危機を乗り越えていかなければなならない。「パンデミック下の途上国支援」シリーズ、最終回となる次回は、「危機を乗り越えるアジア開発銀行」とのタイトルのもと、ADBが2020年12月11日に公表したワクチン支援のための90億ドルの新ファシリティー「APVAX:Asia Pacific Vaccine Access Facility」の概要とその展開にスポットライトを当てる。そのうえで、締めくくりとして、ADBがCOVID19危機に際して、史上最大の規模の支援を迅速・柔軟に提供できた要因について、探っていく。筆者略歴2001年財務省入省、主計局、広島国税局等を経て、2008年よりハーバード大学院ケネディスクール留学。公共政策修士号取得。以降、国際金融・途上国開発、国際租税分野等の政策立案を担当。2011年夏より3年間、世界銀行に出向、バングラデシュ現地事務所及びワシントン本部にて開発成果の計測・モニタリングの仕組みの立上げと展開に尽力。2017年7月にアジア開発銀行総裁首席補佐官に就任。中尾武彦前総裁、浅川雅嗣現総裁のトップ外交、組織経営全般を補佐。著書「ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ~世界を変えてみたくなる留学~」、「バングラデシュ国づくり奮闘記~アジア新・新興国からのメッセージ~」(共に英治出版)48 ファイナンス 2021 Jun.パンデミック下の途上国支援SPOT

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