ファイナンス 2021年6月号 No.667
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だ。しかし、各国の大臣等との面会、大規模なオンラインイベントでのプレゼンテーション、あるいはスピーチのビデオ収録となると、安定したネット環境とITや広報部門のスタッフの直接のサポートが欠かせない。感染予防のためには、スタッフが入れ替わり立ち代わり総裁の自宅を出入りする状況は避けなければならない。(2)スタッフの不安や悩み多くの人々が抱いていた「SARSと同様、半年程度で鎮静化するのでは」との当初の期待を嘲笑うかのように、時がたつほどCOVID19はその広がりと深刻度を増していく。非日常が日常化し、不確実性の霧の中で日々が過ぎていく中、多くのADBスタッフは仕事に奮闘しつつも、生活面、精神面での負担感の高まりを感じている。スタッフの現状や悩みをつぶさに、全体感をもって把握するために、「危機対応チーム」は2020年5月と10月に全スタッフ及び契約社員(コンサルタント)と契約業者に対して在宅勤務に関するアンケート調査を実施した。在宅勤務がスタートした半年後の10月に実施した調査の結果を見ると、82%が「在宅勤務を継続することについて賛成」としている一方、その割合は5月の調査よりも4%ポイント微減、「現状の業務量を在宅勤務で継続することが可能」と答えは5月時点の80%から72%へと減少している。背景にある事情は、アンケート調査で寄せられた「在宅勤務の利点と問題点」を見ることで浮かび上がってくる。在宅勤務(勤務地外勤務を含む)のメリット在宅勤務(勤務地外勤務を含む)の問題・通勤時間の削減(88%)・感染リスクの抑制(71%)・業務時間の柔軟化(69%)・平日日中でも、育児や介護への柔軟な対応が可能(53%)・生産性の向上(44%)・業務手続の省力化、スピードアップ(41%)・研修への参加頻の向上(39%)・所属チーム以外の同僚との接点の希薄化(44%)・業務量の過多(42%)・同僚とのコミュニケーションの減少(41%)・子供のオンライン教育の質へ懸念(33%)・外国にいる家族との長期間の別離(29%)・孤独感(26%)・途上国のカウンターパートとの関係の希薄化(21%)・子育てとの両立の困難化(10%)・時差対応(10%)在宅勤務の長期化に伴い、スタッフ同士のコミュニケーション、特に同じチームや課以外の同僚との接点の減少を懸念する声が多く聞こえる。また、業務過多については、COVID19危機対応でプロジェクトの数やスピードが増したことと合わせて、セミナーやイベントへの参加が増したという声も、特にノレッヂを担う部門の職員から多く聞えてくる。平時であれば出張をして物理的に臨むことが求められたため、日程が合わない等の理由で取捨選択ができたが、全てのセミナーやイベントがオンラインで開催される中、参加を断るのが難しくなっているという事情もあるようだ。また、マニラでは全ての教育機関(インターナショナル・スクールや日本人学校も含む)が2020年3月半ば以降、一年以上閉鎖されたままであり、対面授業は、部分的な再開の目途すら立っていない。こうしたなか、スタッフの子供の教育への懸念は高まる一方だ。日中子供が家で過ごしていれば、その監督や世話で、業務の生産性が落ちることもあるだろう。さらに、頼りのメイドさんが、ロックダウンによる公共交通機関の運行停止で家に来ることができない、ということになれば、状況はさらに深刻になる。こうした事情故、4割のインターナショナル・スタッフがマニラを出て、本人あるいは配偶者の本国等から時差を超えて勤務をしていることは既に述べた。状況がいつ好転し、本部がいつ再開するか、見通しが立てづらい。しかし、子供の学費は学期単位であり、また年度途中の急な、あるいは頻繁な引っ越しは家族への負担が大きいため、どこで勤務をするのか、ある程度長期的な計画を立てていきたい。こんなジレンマが、インターナショナル・スタッフの不安や苛立ちを高める要因となっている。(3)マネジメントの対応浅川総裁以下、ADBの「危機対応チーム」は、危機発生当初から、「職員の懸念の丁寧な把握や直接のコミュニケーションは経営上の最優先課題」との認識のもと、様々な取り組みを進めてきた。例えば、2020年3月12日の本部閉鎖以降、2カ月に一度のペースで約3,600人の全スタッフとその家族、理事会メンバー、そして契約社員をオンラインでつないで「E-Town Hall Meeting」を開催。総裁は毎回出席し、冒頭に直接スタッフに対して語りかけている。「E-Town Hall Meeting」では事前にスタッフから質問を集め、当日、危機対応チームのメンバーがプレゼ ファイナンス 2021 Jun.47パンデミック下の途上国支援SPOT

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