ファイナンス 2021年6月号 No.667
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本基盤を有していたからに他ならない。この点については、中尾武彦前総裁のリーダーシップのもとで実現した株主からの増資に頼らない革新的な資本強化策-ADF(アジア開発基金)の資本金及び貸付債権の一般資本財源への移転・統合-が果たした役割が極めて大きい。この点については、次号にて、ADBがCOVID19危機に際して、迅速・柔軟な対応ができた要因の一つとして焦点を当てる。7長期化する危機と組織経営上の課題これまで、パンデミックで経済、財政、社会、そして公衆衛生上の危機に陥ったアジア・太平洋地域の途上国に対し、ADBが刻々と変化する状況や顧客のニーズに合わせた柔軟な支援を、規模感とスピード感をもって、そして多様なプレーヤーとの協業しながら展開してきたことを紹介してきた。ADBのこうした活動を支えてきたのは、いうまでもなく、約3,600人のスタッフ、及び契約社員(コンサルタント)やサポート業者だ。危機が本格化して以来、週末や深夜も含め、また夏休みや年末年始も返上で激務を続けてきたスタッフの使命感に満ちた奮闘、献身に対しては、途上国の政府や企業、そして株主代表である理事会メンバーから、様々な機会を通じてたびたび感謝と称賛のメッセージが伝えられている。しかし、この状況は、持続可能なのだろうか。危機は一体いつ収束するのだろうか。オフィスでの勤務は、いつ、どういう条件が整えば、再開することができるのだろうか。本稿の締めくくりに、2020年3月12日の本部閉鎖以来、浅川総裁が「危機対応チーム」のメンバーとともに、スタッフの声を聞きながら悩み続けてきたこうした問題について向き合っていきたい。(1)正常化への遠い道のりラクシュミ・メノン総務部主席部長が議長を務める危機対応チームが、ADB本部の再開、スタッフの再出勤に向けた四段階のステップをまとめたガイドラインをスタッフに発表したのは2020年5月22日のことだった。*25) 2021年4月12日にM-ECQへと規制が緩和されて以降、再びステージ2へと戻っている。ステージ名内容ステージ1:準備段階・フィリピン政府によるECQ(Enhanced Community Quarantine)解除(部分的解除)を受けてスタート・ステージ2に移行するために、本部の各種設備の点検や清掃を実施ステージ2:再開初期段階・フィリピン政府による行動規制の段階的な緩和(MECQ:Modied Enhanced Community QuarantineからGCQ:General Community Quarantineへの移行)等を踏まえて移行。・本部に出勤して勤務することが不可欠なスタッフ(Essential Sta)のみ出勤。・各局スタッフの10%を上限とする。メンバーは局長が決定。但し、自家用車で出勤可能な者のみが対象で、本人が出勤を希望しない場合は適用除外。COVID19関連症状のある者は出勤不可。・診療所を除き本部地下一階にあるサービス(銀行、雑貨店、クリーニング屋等)は再開不可。・食堂は閉鎖。テイクアウトの弁当やパン等のみ販売。・ミーティングスペースは使用不可。ステージ3:再開拡大段階・フィリピン政府による行動規制のさらなる緩和(GCQからM(Modied)-GCG)等を踏まえて移行。・本部に出勤して勤務するスタッフを10%から50%を目途に段階的に拡大。ステージ4:完全再開・フィリピン政府による行動規制の終了、マニラにおける教育機関の再開等を踏まえて移行。・原則すべての職員が本部で勤務。マニラの本部は2020年6月9日より上記ステージ2に移行したものの、同年8月初旬から市中感染が再拡大したことを踏まえてステージ1に逆戻り。9月にはステージ2に復帰したものの、今年3月以降、変異種の拡大等により一日の感染者が一万人を超える事態となり、3月29日から4月11日まで政府が三度ECQをマニラ首都圏及び近隣4州に対して適用した間、またもやステージ1に逆戻りしてしまった*25。在宅勤務と合わせて、インターナショナル・スタッフの約4割(約400名)は勤務地外からの勤務(WFH-ODS:Work From Home, Outside Duty Station)を選択し、本人あるいは配偶者の本国等から勤務している。マニラの医療体制への懸念、子供の教育や成長への配慮等、理由は様々だが、マネジメントとしては、本人からの希望があった場合、原則認めることとしている。多くの同僚たちがマニラを去ったまま1年以上が過ぎ、そのオフィスや自宅は、いつとも知れぬ主の帰りを待っている。本部は閑散としており、ステージ4はもちろん、ステージ3への移行のタイミングも見通せない。正常化への道は遠い。なお、浅川総裁、及び筆者も含めた総裁室のスタッフは、ステージ1の段階から、ほぼ毎日本部に出勤し、「社会的距離」を保ちながら対面で仕事をしている。無論、総裁も各局からのブリーフィングや理事会への出席だけであれば、自宅からのオンライン勤務は可能46 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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