ファイナンス 2021年6月号 No.667
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3割以上上回る、総額316億ドル。史上最高となる金額に達した。また、契約締結後、直ちに支払われるCPRO(緊急財政支援)が支援の多くを占めたことから、ADBから政府あるいは企業に対して実際にお金が支払われた額も、史上最高となる236億ドル(対前年比4.3割増)にのぼる。そして、こうした史上最速・史上最大の支援を財務面からの支えたのが、史上最大規模の起債だ。ADBをはじめとする多国間開発銀行(Multinational Development Banks)は、自らが、資本市場から有利な条件で資金を調達できて初めて、途上国に対して、彼らが市場から調達するよりは低利且つ長期の返済期間で融資をすることができる。この点、2020年は、ピエール・ペテガン局長率いるADB財務部にとっても記録的な年であった。200億ドルの支援パッケージを財務面から支えるべく、数多くのシナリオに基づくリスク分析、市場分析、資産・負債分析を実施*23) ノマド債、カラコルム債は、それぞれモンゴルの通貨トゥグルグ、パキスタンの通貨ルピーで価額が表示されるが、決済はドルで行われる(出典:ADB Opens Mongolian Togrog-Linked Bond Market News Release | 3 June 2020)。なお、ADBによる現地通貨建ての貸付残高は2020年末時点で11の途上国現地通貨建てで約23億ドル相当(全て民間セクター向け)となっている(出典:ADB Treasury Report 2020)。*24) ADBは2010年に初めてのテーマ債―Water Bond-を発行して以来、Gender Bond(約3億ドル)、Health Bond(3.3億ドル)、Water Bond(15.9億ドル)、及びGreen Bond(76億ドル)を発行している(出典:ADB Theme Bonds for Sustainable Development, November 2020)。したうえで2019年末に策定した借入計画を見直し、総額350億ドルの起債に成功した。様々な返済期間、22の通貨建てで実施された146の取引の中には、MDBs初となる、モンゴル・トゥグルグ連動債(ノマド債210億トゥグルグ)やパキスタン・ルピー連動債(カラコルム債18.3億ルピー)*23といった途上国の現地通貨建ての債券が含まれる。投資家及び途上国政府との緻密な対話を通じてデザイン、発行される現地通貨建ての債券は、借り手及び貸し手双方の為替リスク低減に役立つため、特に民間企業向け投融資に役立つほか、その国の債券市場の深化にも貢献する。さらに、借り入れた資金の使い道をSDGsの主要テーマに限定するグリーン債、ジェンダー債、ウォーター債といったテーマ別の債券を2020年に12億ドル発行し、SDG投資の拡大も後押ししている*24。なお、ADBがCOVID19危機に際して強力かつ多彩な起債をもって史上最大の支援ができたのは強固な資ADBの新型コロナ対策(2020年) ファイナンス 2021 Jun.45パンデミック下の途上国支援SPOT

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