ファイナンス 2021年6月号 No.667
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5フィジー・エアウェイズ向け民間融資の提供ADBが2020年4月に公表した200億ドルの支援パッケージのうち約20億ドルは、民間企業向け投融資だ。以下ではCOVID19対応の民間企業向けサポートの中で、最も革新的であり、且つ難産であった取引の一つ、フィジー・エアウェイズに対するADBの支援にスポットライトを当てる。(1)苦境に陥った太平洋の翼観光業のGDPへの貢献が極めて大きい一方で、医療体制が脆弱であることから早期かつ長期の国境閉鎖に踏み切らなければならなかった太平洋の島嶼国は、ADBがカバーするどの地域よりもCOVID19危機の影響を大きく受けている。下のグラフが示す通り2020年においてCOVID19により受けた経済損失はGDPの3割以上に上り、且つその8割近くが海外からの観光客の消滅が原因だ。太平洋島嶼国の雄、フィジーも例外ではない。毎年総人口とほぼ同じ90万人近くの観光客を海外から受け入れることで平均5%の経済成長を過去5年間続け、2019年5月には太平洋島嶼国としては初めて、参加者総数約3,000人の大規模な国際会議-第52回ADB年次総会-を成功裏に催したフィジーであったが、2020年の実質GDP成長率はマイナス17.1%という悲惨な状況に陥っている。早期の国境封鎖により国内のCOVID19感染の抑え込みには成功したものの、その巨大な副作用として、観光業だけでGDPの3分の1を稼いできた一本足打法ともいえる産業構造が脆くも崩れ去ってしまった。こうしたなか、無事故、ハイクオリティーのサービス、最新の機体をもって過去5年間で旅客数を27%も伸ばし、フィジーの国際線市場の65%のシェアを握っていた同国のナショナルフラッグであるフィジー・エアウェイズは、世界中の他の航空会社と同様、乗客の蒸発により深刻な経営難に陥った。そして、フィジー・エアウェイズの経営難は、同社及びフィジーだけの問題にとどまらない。同社はフィジーだけではなく、太平洋地域全体の航空需要の約6割をカバーしており、キリバス共和国で暮らす20万人、ツバルで暮らす約1万人の人々にとっては、国外への移動を可能とするほぼ唯一の翼だ。その機体は、旅客を運ぶだけでなく、物流の要としても機能している。サイクロン等の自然災害発生時には緊急支援物資を太平洋の島々に届ける役割を担い、COVID19パンデミック発生以降は、医薬品を含め多くの生活必需品を運んでいる。すなわち、フィジー・エアウェイズはフィジーにとって欠かせないナショナルフラッグキャリアであるとともに、太平洋地域の島嶼国全体にとって死活的に重要な「地域の公共財」なのだ。フィジーの隣国、人口約20万人サモアの国際空港に着陸したFiji Airwaysの機体。フィジーをはじめ、太平洋島嶼国への出張の際は、筆者もFiji Airwaysにお世話になった。(2)支援をめぐるジレンマ2020年4月下旬の段階から、フィジーの首都、スバに事務所を構えるADBの現地事務所のスタッフには、同社及びその主要株主であるフィジー政府からフィジー・エアウェイズへの支援要請が寄せられていた。同社が担う極めて重要な役割を認識していた ファイナンス 2021 Jun.43パンデミック下の途上国支援SPOT

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