ファイナンス 2021年6月号 No.667
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ADBによる200億ドル包括支援パッケージ(2020年4月13日)の概要主な項目概要(3)融資の内部審査プロセスの迅速化、省力化・プロジェクトのコンセプトノート作成*11プロセスを省略し、顧客との詳細な協議(Due Diligence, Fact Finding等)を直ちに開始。・プロジェクト稟議書の理事会への回付期間を3週間から1週間に短縮。(4)技術協力・グラント資金のさらなる拡充・2019年の業務純益*12から「アジア太平洋災害対応基金(APDRF:Asia Pacic Disaster Response Fund)」、「技術協力特別基金(TASF:Technical Assistance Special Fund)」への資金移転額を拡大・APDRFへのドナーからの貢献について、使途を限定した拠出を可能とする形でルールを変更(5)調達ルール等の変更・UNICEF等の国連機関からの医療資機材の“まとめ買い”ができるよう、「ADBの融資、技術協力に必要な資機材の調達先はADB加盟国に限る」とするルールを変更。・技術協力向けのグラント資金を、全額、モノの購入(医療関連物資等)に活用できるよう内規を変更。(6)民間企業に、迅速かつ十分な融資を展開・FAST(Fast Assistance of Smaller Transaction)融資制度の総枠を4億ドルから7億ドルに拡大。・FAST試験運用の期限を2020年12月から2021年7月末に延長・民間金融機関を通じて提供する貿易金融プログラム、サプライチェーン金融プログラムの枠の拡大・マイクロ・ファイナンス機関向け保証プログラムの枠の拡大、運用柔軟化*11 *12上記(4)「技術協力グラント資金のさらなる拡充」については、APDRFの利用可能額が危機前の2019年末の段階で2,110万ドル、一か国あたりの上限が300万ドルであることを踏まえると、7か国に提供すれば底をついてしまう状況にあった。この点、ドナーからの条件付き拠出を可能とするルール変更の直後に、日本政府からAPDRFに対する「コロナ対策に使途を限定する」との条件付きでの拠出を含む、総額1億5,000万ドルものご支援を頂いたことの意味は極めて大きい*13。日本からの支援のおかげで、ADBは2020年を通じて、30の発展途上国に対し、人工呼吸器、検査キット、医療防護服等の調達に必要な計約5千900万ドルのグラント資金をAPDRFからスピード感*14をもって提供することができた。国内の状況も厳しい中、希少な財政資金をタイムリーに提供いただいた日本政府及び日本の納税者の皆様に、この場をお借りして深くお礼を申し上げたい。*11) Concept Noteはプロジェクトの目的、必要性、所要額、基本的なデザイン、実施体制、環境・社会への影響に関するリスクカテゴリー等が盛り込まれ、関係部局との協議を経たのち、担当局長の承認を得てセットされる。このプロセスに通常数カ月を要する。*12) 2019年のADBの業務純益(Allocable net income)は10億6,900万ドル。2019年末時点でTASFへの9,000万ドルの移転(APDRFへの移転はゼロ)が理事会に提案されていたが、包括支援パッケージを策定する中で、TASFへの移転額を4,000万ドル追加し1.3億ドルとするとともに、APDRFに対する1,000万ドルの移転が提案された。なお、ADB の業務純益を内部留保、ADF(アジア開発基金)やTASF等の特別基金にいくら移転するかは毎年12月に理事会で議論をしたうえで、翌5月の年次総会にて総務の承認を得て決定される。*13) 日本からの1億5千万ドルの拠出のうち半分(7,500万ドル)がAPDRFに、残り半分がJFPR(Japan Fund for Poverty Reduction)に充てられた。出典:ADB News Release | 30 April 2020 “Japan to Support ADB Developing Member Countries' Response to COVID-19 Challenges.”*14) APDRFを通じたグラント支援は、対象国からの要請がAPDRFの要件を満たすことを確認された後、72時間以内に総裁決裁を経て直ちに全額が支援対象国に対して支払われる。*15) 但し、必要性が認められる場合には理事会の承認を得たうえで最大2年(2022年4月まで)の延長が認められる。なお上記にまとめた制度や政策変更については、COVID19対策に限るものとして、その有効期間は理事会承認が得られた時点(2020年4月13日)から15カ月とされている*15。以下では、200億ドルの支援プログラムの目玉といえる、新たな財政支援融資-CPRO-について、フィリピンを例に、その内容を紹介していきたい。4フィリピン向け財政支援15億ドル(CPRO)の展開2020年3月15日、ルソン島全土への極めて厳格なロックダウン導入と時を同じくして、フィリピン政府は「COVID19対応戦略」を打ち出した。同月25日には議会の承認なしで予算の組換えをしたり、政府が管理する各種基金の緊急活用ができる権限を大統領に3か月間に限り与える「Bayanihan to Heal as One Act(Bayanihanはタガログ語で協働の意味)」を可決。こうしたプロセスを経て政府が発表したのがGDPの約3.6%にあたる総額約6,556億ペソ(約1兆2,000億円)の経済対策第一弾だ。(1)COVID19感染拡大を抑え込むための医療施設・体制の拡充(約6%)、(2)貧困層や脆弱層に的を絞った現金給付や失業手当の提供(約34%)、(3)中小企業の雇用維持に向けた補助金、減税、及び銀行借入れへの保証(約47%)、(4)小規模農家や地方政府向け支援の実施(約13%)という4つの柱からなる経済対策を実施していくうえで必要となる財源として、ADBによる財政支援のスピーディな提供が期待された。ADBは、戦略政策パートナーシップ局が中心となって、こうしたニーズに応える新たな融資ツール―CPRO―の制度設計を理事会メンバーとも丁寧に協議をしながら作り上げるのと同時に、東南アジア局の公共財政管理と保健の専門家の合同チームが、CPROを含む200億ドルの包括支援パッケージの理事会合意が得られた後、間髪入れずに、財政支援プログラムを展開できる準備40 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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