ファイナンス 2021年6月号 No.667
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という前向きな気持ちへと高めていくうえでの大きな力となった。同時にこの時、フィリピンをはじめとする各国政府では、大規模な経済対策の準備が佳境に入り、ADBでは、これを後押しするための新たな融資制度を含む、包括的な支援パッケージの取りまとめに数多くのスタッフが懸命に取り組んでいた。3「200億ドル包括支援パッケージ」の公表と展開前号で詳述した通り*3、ADBは2020年第一四半期、希少なグラント(無償資金)資源を行内各部局からかき集めて、医療防護具や人工呼吸器の調達、検査体制の充実、そして集中治療室の拡充等、途上国政府が抱えていた死活的ニーズにこたえるとともに、民間業務局が、FAST(Faster Approach to Small Non-sovereign Transactions)と呼ばれる融資ツールを活用して、民間企業へ運転資金を緊急融資していた*4。また、トップから現場レベルに至るまで、顧客との密接なコミュニケーションを通じて変化するニーズの把握に務めるとともに、関係国際機関との連携を強化ていたことも、前号で触れたとおりだ。こうした初動を通じてADBは主として以下の課題を認識していた。(1)ADBが年度当初の借入計画を上回る額の債券を発行して市場から資金を追加調達し、より大規模な支援を途上国に提供できる体制を整えること。(2)ADB加盟の全ての途上国が、制度改革・法改正等の条件なしに、利用しやすい金利水準で借り入れることができる新しい融資の仕組みを作り、各国政府が実施する経済対策を後押しすること。(3)融資の内部審査プロセスを省力化、迅速化すること。*3) 詳細は「「パンデミック下の途上国支援~其弐:危機に起つアジア開発銀行」(ファイナンス2021年5月号)の「6.グラント資金の動員と医療物資の緊急調達支援」を参照されたい。*4) FASTの制度概要と、これを通じた中国武漢の医療物資物流企業への融資については、「パンデミック下の途上国支援~其弐:危機に起つアジア開発銀行」(ファイナンス2021年5月号)」の「3.最前線での動き(1)中国、武漢の医療物資物流企業への緊急融資」を参照されたい。*5) 出典:ADB News Release | 13 April 2020 “ADB Triples COVID-19 Response Package to $20 Billion”*6) 2009年に導入されたCSFは市場からの借入が出来る一定の信用力と一人当たり1,185ドル以上の国民所得ある途上国(Group-C:15か国、Group-Bの7か国)のみが対象。信用力及び一人当たりの国民所得が低い国や脆弱国等(Group-Aの18か国(アフガニスタン、モルジブ、タジキスタン、太平洋島嶼国等)にはアクセス権がない。*7) CSFの条件:金利は6か月Libor+200 basis point、返済猶予期間は3年、返済期間は5-8年*8) PBLの条件:金利は6か月Libor+50 basis point、返済猶予期間は3年、返済期間は15年(ADBの通常資本財源(Ordinary Capital Resources)を原資とする一般条件のPBL)*9) CPROの条件:Group C向け金利は6か月Libor+50basis point、返済猶予期間は3年、返済期間は10年(但し5億ドルを超える貸付の返済期間は5年に短縮)、Group-B向けの金利は2%、返済猶予期間は5年、返済期間は25年、Group-A向けの金利は返済猶予期間(8年)は1%、返済期間(24年)は1.5%*10) 対象国の危機前のマクロ経済運営及び債務の持続可能性については、CPROの理事会承認前に取り寄せるIMFのAssessment Letterの内容をもって確認することが必要。(4)さらなる技術協力・グラント資金を動員し、特に低所得国、脆弱国の医療資機材等の調達支援を継続すること。(5)その際、「ADBのプロジェクトに活用される資機材の調達先はADB加盟国に限定する」とのルール、及び「技術協力のグラント資金は外部専門家をコンサルタントして雇ってプロジェクト準備やノレッジ・ワークを進めるために使うこと」との内規を改めること。(6)民間企業にスピーディに融資を実行できるFASTプログラムや、貿易金融プログラム等を、必要十分な規模で展開できるよう、利用可能上限を引き上げること。こうした問題意識を踏まえて、4月13日に公表した「200億ドルの包括支援パッケージ*5」は、新しく導入する融資制度、既存の融資制度の内容や手続きの変更、調達ルールの柔軟化等を通じて、より早く、より柔軟に、そしてより大きな支援を提供するものだ。以下にその項目及び概要をまとめた。*6 *7 *8 *9 *10ADBによる200億ドル包括支援パッケージ(2020年4月13日)の概要主な項目概要(1)ADBによる追加の資金調達・資金調達計画を見直し、130億ドルの追加資金供給力を確保(2)途上国への迅速な財政支援を可能とする新たな融資制度CPRO(COVID 19 Pandemic Response Option)を従来の「景気対策支援ファシリティ(CSF:Countercyclical Support Facility)」の下に導入・対象:ADB加盟の全ての開発途上国*6・金利・返済期間:従来のCSF*7よりは低利・長期、一般的な政策支援型融資(PBL:Policy Based Loan)*8と同様の金利条件で提供。但し一部の国には短縮された償還期間を設定*9。・融資条件:以下の条件が満たされれば直ちに融資経済危機の原因はCOVID19感染拡大である。感染症拡大防止対策が実施されている。危機の影響を最も受ける人々(脆弱層、貧困層、女性)に的を絞った経済対策が実施されている。危機以前のマクロ経済運営が健全であった*10。CPRO提供後も債務の持続可能性が確保される。 ファイナンス 2021 Jun.39パンデミック下の途上国支援SPOT

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