ファイナンス 2021年6月号 No.667
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ついてもらいます」と言われました。銀行は、ついこの前まで主婦だった私には社長の仕事を担う力量はない、私がトップに立ったダイヤ精機は、もはや単独では生き残れないと見限っていたのです。当社はバブル崩壊後、売上はピークの半分以下に落ち込んでいました。銀行としても、手をこまねいているわけにはいかなったのでしょう。ただこれでは、実質的な吸収合併で、従業員が大幅にリストラされてしまいます。その場で、提案を一蹴し、結果を出すので半年待ってほしいと言いました。社長に就任したのが2004年5月、断腸の思いで5人の社員をリストラしたのが6月、そしてありがたいことに「神風」もありました。メインの取引先である日産自動車がグローバル展開を拡大し、新たなラインを立ち上げるタイミングと重なりました。2005年7月期決算の売上高は、前年比14.2%増を達成しました。「悪口会議」から生まれた地道な経営改善を行い、利益率も上昇。銀行の担当者も折に触れて当社を訪ねて、業績を確認してくれました。当社は上場しておらず業績を開示しているわけではないですから、業績がV字回復したことも、周囲の人は殆ど知らない。結果を出しているにもかかわらず、外からの評価も無いから「これで良いのか」不安になることもありましたが、「よく頑張ってますよ」という銀行の担当者の言葉は大きな支えになり、勇気づけられました。―会社の債務に対する経営者の個人保証が事業承継のハードルになると聞くことがあります。御社の場合は、どのような取り組みをされましたでしょうか。諏訪 事業を引き継いだ際、銀行から10億円の個人保証を求められました。車や家のローンすら組んだことが無いのに、会社が抱える負債の連帯保証人になることは怖かったです。先代からお世話になっている女性弁護士に悩みを打ち明けたところ、「失敗したときに取られて困る財産がないなら怖いものなんてない」、「うまくいけばそれでいいし、失敗しても命まで取られることはない」、「ダメだったら自己破産すればいい」、と言われました。最終的に銀行と交渉して、3,000万円まで個人保証を減らしてもらいました。会社の連帯保証を負うことで、「俺も一人前になった」と捉える経営者もいるようですが、やはり個人保証は重荷になると思います。―現在、コロナ禍による影響が経済全体に及んでいますが、御社の活動への影響はいかがでしょうか。金融機関にどのような期待をされているでしょうか。諏訪 リーマンショックの際の経験で、自動車の生産が減少した際も、メーカーの研究開発部門については開発業務が止まらないことを知りました。コロナの感染拡大後も、研究開発部門向けの受注に力を入れました。また、機械類など、中国の生産活動の立ち上がりが早かったこともあり、全体的に大きくマイナスにはなっていません。他方で、コロナが広がって以降、経営者同士の集まりが少なくなり、多くの中小企業には、業界の趨勢が分かりづらくなっています。また、金融機関は、黒字企業に対して安心されているのかもしれませんが、各企業の設備や顧客層を理解したうえで、事業承継や、取引すれば更に業績が伸びるような企業の紹介といったマッチングをしてくれるとありがたいです。大勢で集まる機会が失われた以上、金融機関に足を運んでもらい、より多くの情報をもたらしていただくことがベストだと思っています。―事業承継の実情や、コロナ禍の課題について様々なご意見をありがとうございます。本日は、お時間をいただきましてありがとうございました。(この勉強会は、3月29日に行われました。参加メンバーは川本・林原・大槻です。) ファイナンス 2021 Jun.35財務省再生プロジェクト 部局横断的勉強会(4) SPOT

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