ファイナンス 2021年6月号 No.667
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において資金調達することになっている*26。米国バイデン政権の経済再生プランのように直接的な増税によって賄うとしているわけではないものの、これらの債務は2027年以降のEU予算を通じ返済されることになっている*27。フォン・デア・ライエン欧州委員長は、復興基金がグリーンやデジタルという将来世代にも裨益するような歳出になっていることから、「私たちは、今この瞬間のみならず、未来の世界のために、より良い生き方を創造することを選択した」として、同基金がコロナ禍を克服することであるのみならず将来世代のための施策でもあることを宣言し、EUの新たな共通財政ツールができたことを結束の象徴として強調した*28。なお、英国についても、コロナ禍で膨らんだ政府債務の返済に充当するため、2023年から法人税の最高税率を19%から25%に引き上げる方針を示している。2021年3月、スナク財務大臣は、不人気な決断なことは承知とした上で「債務問題を将来世代の問題として放置すれば、責任ある財務大臣とは言えない」として、増税計画に対する国民への理解を求めた。なお困難な道程*29*30このように責任ある姿勢を示している米国やEUではあるが、その実現は一筋縄にはいかない。*26) EUは1993年の設立以降初めて大規模な共通債の発行を決定した。*27) 独自財源として、プラスチック賦課金、炭素国境調整メカニズム、デジタル賦課金の他、新規財源の導入が検討されている。*28) 2020年9月16日のフォン・デア・ライエン欧州委員長の一般教書演説(State of the Union)より。*29) (1)国内市場が炭素効率の低い輸入品に脅かされ、国内生産が減少すること、(2)炭素制約を理由に産業拠点が、製薬の緩い海外に移転し地球全体での排出量が減らないこと、を一般に「炭素リーケージ」と呼ぶ。(経済産業省「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」資料より)*30) 欧州委員会では現在、本施策の具体的な仕組みを検討中であり、2023年までの導入を目指している。日本では経済産業省や環境省において議論が開始されている。なお、具体的な制度設計の際にはWTOルール等と整合的かどうかを考慮する必要がある。米国では、税制改革について共和党との合意が困難な状況であり、共和党が増税反対で一致している。また、2022年の中間選挙を控える中で、中道派の民主党議員も本音では増税に慎重になっており、バイデン政権がインフラ投資計画の財源にするとしている法人税の28%までの引上げ等については、実現可能性は低いとの指摘もある。EUにおいても、復興基金をめぐる各国における承認手続きでは、ドイツが国内手続きを一時停止する事態になる等、基金の運用が遅れることが見込まれる。欧州では変異株による感染が拡大する一方、ワクチン接種の進展は米英に比べて緩慢であり、危機前の経済水準への回復は日米に遅れると見込まれている。そうした中、復興基金を通じたグリーン・デジタル等の成長分野へのターゲティングの移行も計画通り進展しなければ、経済成長を前提とした債務持続可能性の維持にも影響が生じるリスクも考えられる。日本にも求められる未来への責任ある対応さりとて、米国やEUの取組みと比べて、日本の財政持続可能性の維持に対する議論は立ち遅れている。日本は他の主要先進国と比して新型コロナによる感染被害は軽微であったと言えるが、経済対策規模を見ると対GDP比で圧倒する。結果として、コロナ禍以前「欧州復興計画パッケージ」では、その財源の一つとして、「炭素国境調整メカニズム」(CBAM:Carbon Boarder Adjustment Mechanism)という仕組みの導入を提案している。これは、EUが求める高い環境基準を達成できないと考える企業が、環境規制の緩やかな国へと製造拠点を移転することを防止する仕組みである。環境問題は地球レベルの課題であるため、いくらEU域内だけで努力し炭素排出を減らしても、EUで操業していた業者が域外国に移り、これまで同様に炭素を排出し続けては本末転倒である*29。そのため、EUは各国に対して、EU並みに環境規制を強めて製品を製造する仕組みを整えるか、もしくはEUから輸出入に係る追加的な負担を課されることで高いコストを支払うことになったとしても、現状の炭素を排出する製造方式を維持するかの選択を迫ろうとしている。このような仕組みの導入には炭素排出の多い国からの反発も予想されるが、バイデン大統領はEUと同様の仕組みを導入するとしており、今後の趨勢に注目が集まる*30。コラム4:EUが検討する「炭素国境調整メカニズム」32 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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