ファイナンス 2021年6月号 No.667
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の見方もあり、FRBは「株式等のリスク資産は期待される収益や過去の水準と比べて高くなっている」として、資産価格急落に繋がるリスクを指摘している*22。さらに、財政に目を向けると、主要先進国における2021年の政府債務残高は120%を超え、第二次世界大戦直後の水準にまで増加する見込みである。新型コロナ対応による債務の増大という事象は先進国共通ではあるが、その影響やインプリケーションは国毎に異なる。インフレリスクへの警鐘米国についてはインフレリスクが懸念されている。2021年4月のCPIは+4.2%(前年同月比)と2008年9月以来の高い伸びとなっており、ワクチン接種の急速な進展*23や、バイデン政権下での大規模な経済対策等を受けて、今後経済がオーバーヒートする可能性も指摘されている*24。他方、FRBはテーパータントラム*25も教訓に市場とのコミュニケーションを丁寧に行っており、金利の急上昇等の想定外のショックが米国の財政や経済にネガティブな効果を与える可能性は低いとの見方もある。いずれにしても、インフレ期待が大きく上昇する中、テーパリングを含むFRBの早期金融正常化観測や景気先行き懸念に対する市場の反応について、引き続き注視していく必要がある。*22) FRB(2021)“Financial Stability Report, May 6, 2021”*23) バイデン大統領は、当初の目標として、就任100日となる2021年4月末までに1億回のワクチン接種を達成する目標を立てていたが、3月にこれを達成したことから、目標を2億回に倍増させていた。その後、4月21日にワクチン接種が2億回に到達し、目標を達成した。*24) 例えば、サマーズ元米財務長官は、米国が「かなり劇的な財政・金融不調和」に直面していると指摘しており、向こう数年間でインフレが加速し、米国がスタグフレーションに陥る確率を3割強と予測している。一方で、それはペントアップ需要の顕在化であり継続的なものにはならないといった見解もある。*25) 2013年5月に、バーナンキFRB議長(当時)が量的緩和の縮小を示唆したことで、長期金利の上昇と期待インフレ率の低下を招き、金融市場を混乱させた出来事。大型財政出動の裏に税制改革ありバイデン政権下で発表された大型の経済再生プランについては、米国経済と労働者の未来に再投資するとしている。そのため、単純な歳出増の計画ではなく、税制改革を含めた財源論についても考慮の上、設計されている点は注目に値する。例えば、第1弾(米国雇用計画)については、8年間で約2兆ドルのインフラ投資の見合いとして、法人税率の引上げを含む15年間で2兆ドル超の増収となる税制改革案「メードインアメリカ税制」(Made in America Tax Plan)も含まれており、これを同計画の財源とするとされている。また、第2弾(米国家族計画)については、10年間で約1.8兆ドルの家計への投資の見合いとして、10年間で約1.5兆ドルの税収増となる所得税・キャピタルゲイン税を中心とする税制改革案等が盛り込まれており、投資費用は第1弾と合わせて15年間かけて賄われると見込んでいる。理想を追い求めるEUが目指す復興の形EUは、コロナ後の経済復興のための欧州復興基金を創設した。7,500億ユーロもの大規模な基金だが、財源論についてもセットで議論されており、欧州委員会がEU共通債(うち3割は環境債)を発行し、市場バイデン政権の経済対策(Build Back Better)米国救済計画American Rescue Plan米国雇用計画American Jobs Plan米国家族計画American Families Plan目的短期の新型コロナ対策長期の経済再生プラン「米国人への直接的な救済、COVID-19の封じ込め、そして経済回復への橋渡し」「多くの良質な雇用を創出し、国のインフラを再構築し、米国が中国に対抗できるようにするもの」「中流階級を再建し、米国の未来に投資するための、教育・医療・育児への一世一代の野心的な投資」規模1.9兆ドル8年で2.3兆ドル10年で1.8兆ドル主要施策●コロナ対応:3,700億ドル●個人への現金給付:4,100億ドル●失業給付の上乗せ:2,100億ドル●交通インフラ投資:6,210億ドル●住宅・教育等インフラ整備:3,780億ドル●製造業支援:3,000億ドル●無償教育の拡充等:5,060億ドル●救済計画の児童税額控除拡充の延長等:8,000億ドル財源国債発行税収増(15年で2兆ドル超)●法人税率引上げ:21%→28%●GILTI税率の21%への引上げ税収増(10年で1.5兆ドル)●所得税の最高税率引上げ:37%⇒39.6%●富裕層や大企業への徴税強化状況1/14発表、3/11成立3/31発表4/28発表民主党単独で可決※財政調整措置により議事妨害を突破成立時期・内容は未定で、今後の民主党・共和党間の議論次第(出典)ホワイトハウスHP等、2021年5月10日時点。 ファイナンス 2021 Jun.31新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第1回) SPOT

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