ファイナンス 2021年6月号 No.667
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し、加盟国の財政赤字3%以内、政府債務残高対GDP比60%以内を定めた予算要件からの逸脱を一定期間容認している。~2020年7月中旬 東京~フィッティングルームで電話が鳴った。「君の配属は国際局地域協力課だ。羽を広げて頑張ってくれ。」―社会復帰を目前にして男はスーツを仕立てていた。コクサイキョク。国債?は確か理財局だから、国際局ということか。どうやら欧米の経済政策を担当するらしい。アルゼンチンにも行けるだろうか。新しいスーツを身に纏い、世界に羽ばたく準備をした。EUの盟主ドイツのリーダーシップ南北・東西と様々な違いを抱えるEUは、コロナ危機を前にして加盟国間の対立が深まっていた。分裂の危機を避けるべく、当時議長国であったドイツのメルケル首相はリーダーシップを発揮した。EU全体で借金をすることで、イタリア等コロナ被害が甚大な国の支援に補助金を回すという新たな予算スキームについて、当初反対していたドイツは大きく譲歩し、欧州の復興基金構想に合意した。これにより、ドイツを始めとする国々は他国の借金をいわば肩代わりすることになるが、EUの結束を優先した。結果、同年7月、欧州理事会において1兆743億ユーロの「多年度財政枠組み」(MFF:Multilateral Financial Framework)*16に加え、特別予算である7,500億ユーロの「欧州復興基金」(NGEU:Next Generation EU)*17で構成される、総額1兆8,243億ユーロの「欧州復興計画パッケージ」が合意された*18。EU予算は1年当たりGNIの1.23%を上限とする中、7か年予算のMFF(2019年名目GDP比7.7%)に対し復興基金は同5.4%であり、歳出抑制路線を堅持してきたEUにおいては異例な規模の予算措置と言*16) EUでは、政策の優先度に応じて、政策分野ごとに多年次(通常7年間)にわたる歳出のおおまかな上限が定められる。今回の多年度財政枠組みは2021~2027年までのEU予算の歳出計画。*17) 7,500億ユーロの内訳は、補助金3,900億ユーロ、融資3,600億ユーロ。当初、補助金額は5,000億ユーロとされていたが、倹約4カ国(オーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン)やフィンランドの反対によって減額された。*18) 復興基金の資金配分において、「法の支配」の順守を条件とする方針に対してハンガリーとポーランドが反発し、拒否権の発動を示唆していたが、同年12月のEU首脳会議でEU予算案に合意した。早ければ2021年後半以降にも支出が開始する見通し。*19) バイデン政権で発表したこれら3つの経済対策を総称して「Build Back Better」としている。*20) IMF(2021)“World Economic Outlook, April 2021”*21) 例えば、株式市場においては、米ダウ平均が2021年5月7日に過去最高値を更新した(3万4,778ドル)。また、債券市場においては、米国長期債金利が同年3月18日に1年2か月ぶりに1.7%を突破し、倒産確率が高い低格付け債(ハイイールド債)の利回りは同年2月15日に過去最低水準まで低下した(4.08%)。さらに、仮想通貨市場においては、ビットコインの価格が同年4月16日に過去最高値を更新した(1ビットコイン=6万3,500ドル)。える。また、同パッケージのうち3割は気候変動分野に充当するとされるなど、EUの中長期的な主要課題に重点的に資源配分することで、復興を通じたより強靭な経済体制の実現を目指している。バイデン政権の経済対策米国においては、矢継ぎ早のコロナ対策も道半ば、大統領選挙が本格化してきた最中に感染第3波が始まると、2021年1月にはピークを迎え、世界最悪の感染状況となっていた。1月14日、バイデン次期大統領は就任に先駆け、現金給付の上乗せ等を含んだ総額1.9兆ドルの経済対策「米国救済計画」(American Rescue Plan)を公表し、議会(共和党や民主党左派等)との調整を経て、大統領就任後の3月11日に成立させた。さらに長期的な経済再生プランとして、同月31日にはインフラ投資「米国雇用計画」(American Jobs Plan)に2兆ドル、4月28日には家計への投資「米国家族計画」(American Families Plan)に1.8兆ドルを盛り込んだ大規模な財政出動を伴う経済対策を立て続けに発表した*19。トランプ政権下も含めた累次の経済対策やFRBによる金融緩和、そしてワクチン接種の進展の結果として、米国の実質GDP成長率は、2021年前半には先進国で唯一、コロナ危機前の水準を回復すると見込まれている*20。3ポスト・コロナ時代に向けた政策的インプリケーションIMFによると、上述の大規模な財政政策・金融緩和や、ワクチン普及を背景とした経済回復期待の効果として世界経済は持ち直しているものの、株式、不動産、仮想通貨といった資産の高騰、期待インフレ率やCPIの上昇等、金融市場において副次的な動きも見られている*21。これについて資産バブルが生じていると30 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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