ファイナンス 2021年6月号 No.667
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こうした中、トランプ大統領は、2020年3月6日に第1弾(83億ドル)、同月18日に第2弾(1,919億ドル)、さらに同月27日には個人への現金給付を含む第3弾(2兆2,400億ドル)の経済対策を立て続けに実施した。トランプ政権下での経済対策は、4月に成立したPPP(給与保護プログラム)増額等のための追加経済対策(4,834億ドル)や12月に成立した第4弾(8,677億ドル)も合わせると総額3.8兆ドルにも上り、2008~2009年の世界金融危機時の1.5兆ドルを大幅に上回る規模となった。FRBの金融政策対応2020年2月下旬以降、コロナショックで金融市場は混乱していた。株価は急落し、国債利回りが低下する等、安全資産への逃避行動が見られた。また、各国の入国規制措置により航空機燃料等の原油需要が大幅に低下するという予測も相まって原油価格も大きく下落した*8。パニックに対処すべく、FRBは同年3月の間に下限(0.00-0.25%)となるまで政策金利の利下げを繰り返し、米国債やMBS等の購入による量的緩和によりバランスシートを急激に拡大させた。また、トランプ経済対策第3弾により、米財務省からの出資や保証を受けた新型コロナ対策ファシリティを設立*8) WTI原油先物価格は2020年4月20日、1バレル=マイナス40ドル32セントをつけ、史上初めてマイナス価格を記録した。*9) 豪州準備銀行、ブラジル中央銀行、デンマーク国立銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、ノルウェー中央銀行、ニュージーランド準備銀行、シンガポール金融管理局、スウェーデン国立銀行。*10) 1回目(2020年3月):大人1,200ドル、子供500ドル(総額約2,930億ドル)、2回目(2020年12月):600ドル(総額約1,660億ドル)、3回目(2021年3月)1,400ドル(総額約4,100億ドル)を支給(1回目は年収99,000ドル以上、2回目は年収87,000ドル以上、3回目は年収80,000ドル以上の者は給付対象外)。*11) Michiru Kaneda, So Kubota, Satoshi Tanaka“Who Spent Their COVID-19 Stimulus Payment? Evidence from Personal Finance Software in Japan”(Covid Economics:Vetted and Real-Time Papers, Issue 75, p6-29(2021))*12) 景気後退期に購買行動を一時的に控えていた消費者の需要が、景気回復とともに遅れて表面化することを指す。「pent-up」は「鬱積」を意味し、需要は消滅したわけでなく、将来に繰り延べられているという発想に由来する。し、中小企業等への流動性供給を実施した。同年3月下旬、FRBは、国際決済の円滑化や国際金融システムの安定化を図るための措置として、海外主要5中銀(日銀、BOE、ECB、カナダ銀行、スイス国立銀行)に加え、新たに9行*9との間に米ドル流動性供給スワップを締結した。さらに、Fedに口座を持つ外国中銀および国際機関(FIMA:Foreign and International Monetary Authorities)の米ドル調達ニーズに対応するため、暫定的なレポファシリティを供与することで、外貨準備の減少に悩む新興国の米ドル流動性を確保するとともに、米国債売却リスク等を回避した。こうしたFRBの積極的な政策対応により、リスク資産価格が回復する等、世界的な金融市場の混乱は収束に向かっていった。~2020年4月 再びコネチカット~*10*11*12状況は日々悪化の一途を辿っている。東京五輪は1年の延期が決定した。トランプ大統領は欧州からの入国禁止措置を発表し、友人はドイツ旅行を断念した。今月から授業が完全オンライン化され、ソーシャルディスタンスを確保するために宿舎の移転も迫られた。田舎町にもロックダウンが敷かれ、飲食店は出前コロナ危機により経済的困難に陥った個人に対する救済策として、日本と米国では、経済対策において現金の直接給付政策が行われた。米国では個人を対象とする定額給付がこれまでに3度実施されており、給付総額は約8,690億ドルに上る*10。ただし、当該給付金の使途を尋ねる調査では約半数が貯蓄に回すと回答しており、生活費の下支えという所期の効果を発揮しているとは言い難い。こうした貯蓄の増加等の影響により、2020年の家計貯蓄額は過去最高を記録している。日本においても、国民1人当たり10万円の特別定額給付を2020年度補正予算で措置したが、給付金の7割が貯蓄に回ったとする調査結果も出ている*11。また、2020年の家計貯蓄額も、米国と同様過去最高を記録している。なお、積み上がった貯蓄は、外出自粛等により本来あり得た消費が抑制された影響が大きいとも指摘されており、パンデミック終息後には一定のペントアップ需要*12が想定されるが、他方で現在の自粛生活に慣れた生活者の生活スタイルが固定化することにより、貯蓄が高止まりする可能性も指摘されている。コラム2:現金給付政策の効果は?28 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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