ファイナンス 2021年6月号 No.667
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後に大統領令が発出され、観光ビザの外国人の滞在には刑事罰が科されるらしいと聞く。まだアンデス山脈の麓メンドーサでワイナリー巡りをしていない。が、今は帰るしかない。また来よう。街中では労働者たちがマテ茶を回し飲みしていた。皆この騒動をアジアや欧州の一部の話、対岸の火事だと思っている。それとは裏腹に、外国人観光客は急な帰国を迫られ、後ろ髪を引かれながら男もその地を後にした。*7~2020年3月中旬 ニューヨーク~11時間のフライトを終え、くたびれた様子でジョン・F・ケネディ国際空港を出ると、見たことのない世界が広がっていた。飲食店のイートインスペースには張り紙が貼られ、座席が間引かれている。タイムズスクエアに*7) 速水融(2006)「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」藤原書店はマスクを着けた人も散見された。この国でマスクを着けるのは医者かホッケープレーヤーくらいのものかと思ったが。確かな違和感に迫り来る危機を感じた。2各国の新型コロナ対応トランプ政権の経済対策新型コロナによる被害が世界最悪の米国においては、2020年3月以降に経済活動の制限措置が講じられたことで実質GDP成長率は大幅な減少(2020年第1四半期▲5.0%、同年第2四半期▲31.4%、前期比年率)に転じ、2009年から続いた戦後最長の景気拡大期が終了した。労働市場においても、2020年3~4月に労働者数が大幅に減少し、4月の失業率は戦後最悪の14.8%にまで悪化した。今回の新型コロナウイルス以外にも、人類は交通の発展とともに多くのパンデミックを経験してきた。中国起源のペストは、シルクロードを経由してユーラシア大陸の西側に持ち込まれ、6~8世紀にビザンツ帝国で繰り返し流行した。その後、14世紀にもペストが大流行し、欧州人口の3分の1が死亡したとされる。大航海時代になるとスペイン人により米大陸に天然痘を始めとする疫病が持ち込まれ、免疫を持たない原住民にたちまちに伝染した。産業革命を経てグローバル化がさらに進展すると、19世紀にはインドからコレラがパンデミックとなり、黒船に乗って幕末の日本にも到来した。第一次世界大戦末期に大流行したスペイン風邪(インフルエンザ)では、世界人口18億人に対して、累計2000~4500万人が死亡したとされる*7。つい100年前のことである。当時の内閣省衛生局では、マスク着用を推奨し、多人数での会合を避けるよう呼びかけていた。米国でも営業時間の短縮を要請したほか、サンフランシスコなど一部の都市ではマスク着用が法令で義務化された(下図参照)。19世紀には、北里柴三郎によるコレラ菌発見を含め、結核菌やペスト菌等についても解明が進み、また血清療法やワクチンが普及したことで、人類は感染症への対抗を強めていった。しかしながら、これまでに人類が根絶に成功した感染症は唯一天然痘のみである。新型コロナウイルス感染症についてもその他の感染症と同様、ワクチンや治療薬を用いつつ、あるいは社会的な行動変容を伴いつつ、共存していくほかないと思われる。スペイン風邪流行時にマスクをつけて整列するシアトルの警察官 (Getty Images)内閣省衛生局が制作したスペイン風邪予防の啓発ポスター (国立保健科学院)コラム1:コロナパンデミックは未曾有か?感染症の歴史 ファイナンス 2021 Jun.27新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第1回) SPOT

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