ファイナンス 2021年6月号 No.667
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ここでは「新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢」と題して、最近の国際情勢における目まぐるしい変化について、財務省国際局に所属する新米課長補佐が自身の経験を振り返りつつ概説していく*1。国際局の業務所掌範囲の広さゆえに論ずべきテーマも多岐に渡るため、貴重な当誌の誌面を3か月間に渡りジャック*2させていただくこととなった次第。さて、記念すべき第1回では、世界の主要国における新型コロナ対応を取り上げたい。新型コロナウイルス感染症は世界のあり方を大きく変えたビッグインパクトであり、今事務年度を語るに不可欠の最重要テーマであることは論を俟たない。1新型コロナの感染拡大~2020年2月下旬 コネチカット~「日本はクルーズ船の乗客を解放。これは安全なのか?」*3―最近、母国のニュースをよく目にする。男はニューヨークからバスで2時間ほど離れた田舎町の大学に留学している。その日はクラスの友人にも「福島第一原発事故と共通点が見られる」「東京五輪は開催可能なのか」等と詰め寄られ面食らった。そろそろ長期休暇があり、その友人は婚約者とのドイツ旅行を心待ちにしていた。男はというと、金融政策のペーパーを執筆すべくアルゼンチンを訪問し、現地エコノミストらにヒアリングせんと意気込んでいた。*1) 6~8月号にかけて、全3回に渡り連載する予定。この場を借りて、関係各位のご尽力に改めて感謝申し上げる。なお、本稿における意見は筆者個人の見解であり、所属する組織を代表するものではない。*2) 「ジャック」は「hijack」に由来する和製英語であり、本来の英語では「takeover」等とするのが正しい。(「hijack」の由来については諸説あるが、「Hi, Jack!」(ハイ、ジャック!)と運転手に呼びかけ車を強奪する犯罪から名付けられたという説や、「Stick’em up high, Jack!」(手を高く上げろ!)という銃口を突きつける際の脅し文句から名付けられたという説が有力とされる。)*3) New York Times “Japan Lets Cruise Passengers Walk Free, Is That Safe?”(2020年2月19日)。なお、現在の見出しは“Hundreds Released From Diamond Princess Cruise Ship in Japan”へと変更されている。*4) 原稿執筆時の2021年5月10日時点で、全世界の累計感染者数は1.5億人、累計死者数は322万人に達している。以下、新型コロナウイルスへの感染者数・死者数はWHOによる数値を参照。*5) 特に感染状況の深刻だった米国では、ピーク時には1日の新規感染者数が30万人を超え、同死者数は5千人以上に上った。同国における累計死者数は60万人に迫り、これは米建国史上最大の犠牲者を出した南北戦争に比肩する。また、欧州でも累計死者数が100万人を超える等、国境を越えて感染が拡大していった(2021年5月10日時点)。*6) 「オンザロック」(on the rocks)はウイスキー等の酒を氷塊に注いだ飲み方(いわゆるロック)。また、「(船が)座礁する」という意味もあり、これが転じて「状況が危機的であること、行き詰まること」も指す。新型コロナの感染拡大2019年末に中国武漢で感染が報告された新型コロナウイルス感染症は、2020年になると瞬く間に世界中に伝播し、パンデミックとなって各国で猛威を振るった*4。治療薬のないこの新たなウイルスによる感染拡大は、世界経済にも史上最大規模の危機的状況をもたらした*5。新型コロナの流行を受けて、2020年1月下旬、武漢が都市封鎖(ロックダウン)となったが、その後2月には日本でクルーズ船内における集団感染が起こり、3月に入ると韓国、イタリア、イランでも感染者が急増した。3月11日、WHOは新型コロナのパンデミックを宣言したが、この頃から米国や欧州においても感染者が急激に増え始め、先行きの不安を背景に世界の金融市場も過敏に反応した。それまでは中国や日本等アジアの問題だと拱手傍観していた欧米各国でも、突如我が事として政策対応が取られ始めた。~2020年3月上旬 ブエノスアイレス~かつて世界五傑の豊かさを誇ったアルゼンチンの首都にて、男は岐路に立たされていた。時を同じくして同国初の新型コロナ感染者が確認されたため、予定は全てキャンセルとなった。開き直ることにして、イグアスの滝で水飛沫に打たれたり、パタゴニアへ行きウイスキーをオンザロック*6で嗜んだりした。しかし直国際局地域協力課国際調整室 庄中 健太新米課長補佐の目から見る 激動の国際情勢(第1回)―新型コロナ対応に見る各国のスタンス―26 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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