ファイナンス 2021年6月号 No.667
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い、馬鹿にならない修繕費が発生する)。そのため、基準財政需要額への算定を考慮したとしても、学校の合併を進めることが財政的には有利であるといえる。たった1年のデータによる分析ではあるが、この結果もそれを示しているのではないだろうか。(3)については、尼崎市の場合を例にすると生活保護費(H22年度まで)があげられる。生活保護費については、法令等による義務付けがあり、各市町村の努力、裁量による経費削減の余地がない。これについて、決算額とのかい離が大きいのであれば、交付税制度を含めて何らかの制度変更が必要となる。尼崎市は、生活保護費について実際とのかい離が大きかった(H22年度は措置割合84.4%)が、国に対し地方交付税法第17条の4に基づく意見の提出を積極的に行ったこと等によりH23年度以降はそれが改善している(詳細は、脚注3の尼崎市のスライドを参照)。これまでの議論に基づき、海津市への提言をするとすれば、海津市は地方交付税の計算時に想定されている、「バーチャルな海津市」に近づけば近づくほど(つまり、交付税法上の、「標準的な」行政サービスに想定されていない、温泉や道の駅、特養や老健を民営化したり、廃止したりする)、資金繰りに余裕が生まれてくる。だが、仮にこれらの施設の廃止となると海津市に魅力がなくなってしまうという反論も妥当である。ここで、この提言は「比べてみること」だけを勧めており、「基準財政需要額に算定されない事業はやめなさい」となっているわけではないことに注意してほしい。海津市が2つも温泉や道の駅を持っているのは、「過剰」だと切り捨てることもできるが、「他の市にはない特色」と好意的に捉えることも不可能ではない。仮に、「たとえ財政的に厳しくとも、この2つの温泉をはじめとした施設を存続させていこう」という覚悟があるのであれば、次にすることは「市税収入を上げること」である。市税収入が増えれば、それだけ留保財源も増加するので、独自の事業を継続しやすくなる。「温泉事業や道の駅を続けるために、移住者や企業誘致をする」というのは本末転倒ではあるが、財政的にはそうしていく他ない。(もしくは、ふるさと納税や入湯税、都市計画税(現在、海津市では都市計画税の課税なし)といった基準財政収入額に算定されない寄附金や税を増やすということも考えられる。)いずれにせよ、地方交付税という巨大な制度の財源保障機能を考慮すると、地方団体の財政運営を適切に行うためには、この制度をしっかりと理解することが不可欠である。7さいごに「文章を書くという作業は、とりもなおさず自分と自分を取り巻く事物との距離を確認することである。」と村上春樹氏はデビュー作「風の歌を聴け」で記している(デレク・ハートフィールドという架空の作家の言葉として)。この本を初めて読んだ時から、この文章が自分の頭から離れない。書くことで、書かれる内容について理解していることと、していないことがはっきりとする。また、書き進めることでさらにその物事との距離が近くなっていく。この投稿をすることで、自分自身の地方財政への理解がさらに深まるだけでなく、何らかの有益な情報が読者の皆様にあれば、望外の喜びである。また、この記事では海津市の温泉施設をはじめとした独自の行政サービスについて若干批判的な記述を行ったが、一市民(というか一温泉好き)としては、海津温泉も南濃温泉水晶の湯も大好きであり、お勧めスポットである。海津温泉は、いつ行っても空いているのでリラックスできるし、お湯の質も大変高い(名古屋等の遠方からもお湯を目当てに客がきている)。また、水晶の湯は濃尾平野を見渡せて、誠に絶景である。名古屋のビル街まで見ることができる。11月の投稿やこの投稿を見て、海津市に興味を持った方がいれば、是非とも海津市の温泉に足を運んでみていただけないだろうか。先にも書いた通り、入湯税は基準財政収入額に算入されないので、読者の皆様に来ていただければ、それだけ海津市を財政的に助けることにもなる。【参考文献】・ 尼崎市HP「尼崎市における地方交付税の現状と課題」 URL: https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_zaisei/kouhuzei/local_allocation_tax.html・ 岡本全勝(1996)「地方交付税 仕組と機能―地域格差の是正と個性化の支援」(大蔵省印刷局)・ 黒田武一郎(2020)「地方交付税を考える―制度への理解と財政運営の視点」(ぎょうせい) ファイナンス 2021 Jun.25普通地方交付税を踏まえて、基礎自治体の財政運営について考えるSPOT

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