ファイナンス 2021年6月号 No.667
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〈表2〉 海津市と輪之内町の実施事業 (基準財政需要額に算定されないもの)基準財政需要額に算定されない事業温泉(指定管理)道の駅公営の特養・ 老健海津市222輪之内町000海津市は、「海津市老人福祉施設海津苑(海津温泉)」と「南濃温泉水晶の湯」という2つの温泉について、指定管理者制度で運営を行っている。これらは、もちろん図2にある基準財政需要額に算定される事業ではない。つまり、「バーチャルな海津市」が行う事業として、交付税では考えられていない。理論的にはすべて市の「留保財源」で実施すべき事業である。同様に、道の駅(クレール平田、月見の里南濃)や公営の特養・老健について海津市は運営しているが、これらも基準財政需要額には算定されない。それぞれの決算額を見てみよう。〈表3〉交付税に算定されない事業の決算額(単位:千円)温泉 (指定管理)道の駅公営の特養・ 老健R元 一般財源決算額(A)158,01674,45927,600R元 交付税措置推計額(B)27,0612050交付税措置額を除いた決算額A-B130,95574,25427,600表3は、温泉等の事業の海津市令和元年度決算額である。公営温泉については、令和元年度の決算額(一般財源分)については、およそ1.5億円かかっている。このうち、交付税措置がされているのは、合併特例債という建築時に借りた借入金の元利償還金分の2,700万円ほどなので、結果的には1.3億円ほどの費用の歳出超過。同様に、道の駅は7,400万円ほど、特養・老健については、2,800万円ほどの歳出超過となっており(道の駅についても合併特例債の元利償還金)これら3つの合計でおよそ2.3億円の歳出の超過となっている。一方で、これらの事業について、輪之内町は実施していない。また、表にはないが基準財政需要額に算定される事業についても、海津市と輪之内町は異なる点が多々ある。消防署については、海津市は市で自前の消防署をもっているものの、輪之内町は「大垣消防組合」という一部事務組合で実施している。火葬場についても海津市は自前のものをもっているが、輪之内町はお隣の安八町と共同利用している。先に、輪之内町の人は、「特に町には何にもないんですけどね…」とよく言うと紹介したが、まさにこの「基準財政需要額に算定されない事業を行っていないこと」が輪之内町の健全な財政の理由の1つとなっているのは間違いない。一点補足させていただくと、当方の主張する、基準財政需要額を超える過剰サービスゆえの財政悪化という説明(歳出の観点からの説明)は、市税が少ないこと(歳入の観点からの説明)のまさにコインの裏表の関係であり、実際には同じことを言っている。市税収入が少ないことは、つまり留保財源が少ないことであり、市の独自事業をすることが難しいことに繋がるからだ。ただ、この交付税という制度の仕組みや短期的に市税収入を増やすことが難しいことを考慮すると、まずは歳出から考えるほうが適切である。6財政的に苦しい自治体への提言:基準財政需要額と実際の歳出を見比べてみる読者の方の中には、海津市と同様に実質単年度収支の赤字が続いており、今後の財政の持続性に不安を抱かれている地方団体の財政担当者もいらっしゃるかもしれない。これまで論じてきたことから仮に彼/彼女に提言するならば、「基準財政需要額と実際の歳出を比べてみてはどうでしょう」となるだろう。市税収入を大きく増加させることは、多少移住者が増えただけでは無理であり、大規模な企業誘致に成功しない限り、達成することは難しいだろう。そうなると、どうしても短期的に資金繰りをよくするためには、「普通交付税の基準財政需要額に算定されない事業を見直していく」という作業が必要となる。この視点が有用であるのは、見直す事業の優先順位が明確になることだ。考え方の優先順位(1)まずは、基準財政需要額に算入されない事業(温泉や特養等の民間でも実施が可能な事業)の今後の実施について検討する。(2)基準財政需要額に算定される事業であっても、それが基準財政需要額を大きく上回り、「標準的な」レベルを超えたサービスを提供しているときには、それを見直す。(3)基準財政需要額を超えてしまう理由が、「標準的な」レベルを超えたサービスを提供しているわけでない場合(どれだけ効率的な事業執行をしていても、実際にかかる費用が基準財政需要額を大きく超えてしまう場合)には、国に単位費用や補正係数の変更を要望する。 ファイナンス 2021 Jun.23普通地方交付税を踏まえて、基礎自治体の財政運営について考えるSPOT

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