ファイナンス 2021年6月号 No.667
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に各自治体で決定できるわけではないものが多々あり、かつ、東京都と奈良県や島根県もしくは、この近辺だと大垣市と海津市のように、自治体間で財政力に大きな差が存在することも事実である。この現実に対応する方法はいくつか考えられるが、「全ての都道府県と市町村は、基本的には同じ行政サービスを提供することが望ましい」という立場を選択するのであれば、各団体が一定の財源を確保できるような財政調整が必要となる。財政格差を調整する主要なツールの一つが、地方交付税という制度であり、それぞれ所得税・法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の19.5%、地方法人税の全額とされている(地方交付税法第6条)。毎年の予算折衝では、この法定率分をベースとしつつ、地方財政対策を通じて交付税の総額(マクロ)がまず決定される。その上で、交付税の総額の配分にあたっては、人口や面積などの客観的な指標をベースにしつつ、補正係数や単位費用が毎年調整され、個別の地方団体への交付額(ミクロ)が決まることになる。また、地方交付税は「普通地方交付税」と「特別地方交付税」の2つがあり、前者は総額(マクロ)の94/100、後者は6/100とされている(地方交付税法第6条の2)。特別交付税は、基準財政需要額に、算定方法によって捕捉されなかったり、災害の発生等により「特別の財政需要」があった際に別に交付されるものであり、以下では「普通地方交付税」について論じていく。3基準財政需要額についてこの章と次章では、ミクロの視点で普通地方交付税について検討していく。総務省のHPに記載されている、普通地方交付税の額の算定式は・各団体の普通交付税額=(基準財政需要額-基準財政収入額)=財源不足額・基準財政需要額=単位費用(法定)×測定単位(国調人口等)×補正係数(寒冷補正等)・基準財政収入額=標準的税収入見込額×基準税率(75%)というものであるが、実際には基準財政需要額のところが少し異なる。臨時財政対策債(臨りん財ざい債さいと略されることが多い)発行可能額に基準財政需要額の一部が振替えられているので、脚注3で紹介した尼崎市作成のスライド(図1)のようになるのだが、ここでは深く立ち入らない(この記事では深く立ち入らないが、地方財政を理解するうえで大変重要なポイントである)。基準財政需要額のポイントは、各地方団体の「標準的な行政経費」を表すということに尽きる。「標準的」とは、この場合どういうことを指すのか。地方交付税法には、「単位費用」について、「標準的条件を備えた地方団体が合理的、かつ、妥当な水準において地方行政を行う場合又は標準的な施設を維持する場合に要する経費を基準」とすると規定されている(法第2条第6号)。つまり、海津市を例に簡単に言うと、「実際の海津市」が必要な経費を算入してくれるわけではなく、あくまで「人口が3万4千人で、面積が112平方キロメートルで、道路の面積が5,295千平方メートルで延長が1,131キロメートルでetc..(これらは、地方交付税の用語で「測定単位」という)」の「バーチャルな海津市」が必要な経費を算入するということである。単位費用と測定単位に寒冷補正や密度補正といった「補正係数」がかかる。これらを、消防費や土木費といった費用ごとに足し合わせることで、基準財政需要額が算定される。抽象的な説明だとわかりづらいので、海津市の令和元年度の普通交付税算定結果のうち、消防費を例に具体的に説明していこう。消防費については、測定単位が人口となっているが、補正前の人口35,206人(国勢調査のデータのため、2015年のデータが使用される。)に対して、段階補正と密度補正、さらに合併した市町村に特有の補正も加算され、合計で1.497の補正がかかる。これらに単位費用の11,300円/人をかけて、595,544千円(35,206*1.497*11,300)円が消防費の基準財政需要額と算定される。つまり、補正係数によって、単純に測定単位35,206人×単位費用11,300円/人となるわけではなく、52,703(35,206*1.497)人の人口がある市町村と同じだけの基準財政需要額が算定される。実際に、令和元年度海津市決算状況調査(決算統計)のうち消防費(一般財源分)を見ると568,001千円となっており、基準財政需要額と決算額の ファイナンス 2021 Jun.19普通地方交付税を踏まえて、基礎自治体の財政運営について考えるSPOT

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