ファイナンス 2021年6月号 No.667
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15.2%増加している。実質単年度収支(実質単年度収支の詳細については、ファイナンス11月号の拙記事に詳細あり)で比較すると、輪之内町は、直近7年間のうち、5度黒字になっており、ほぼトントンで財政を運営できているが、海津市は7年間のうち5度赤字となっており、特に2013年度以降は赤字が定着してしまっている。つまり、輪之内町は基本的にその年の歳入で歳出を賄えており、持続可能性の高い財政構造であるといえるが、海津市は歳入を歳出が上回ることが常態化しており、財政調整基金や繰越金といった、家計でいう貯蓄にあたるものを取崩しており、このままでは持続的な財政構造とは言えない。〈グラフ2〉 海津市、輪之内町の実質単年度収支の推移 (2012年~2018年)輪之内町海津市-8004002000-200-400-60020122015輪之内町:直近7年で5回黒字海津市:直近7年で2回黒字2018(百万円)また、人口や財政だけが原因ではないのだろうが、地元の人々のそれぞれの役場への評価も結構な差がある。海津市の地元の人は、「輪之内町は財政的にしっかりしているので羨ましい。(そのあとは、「それに比べてうちの役場は…」と続くことが多い)」と言い、輪之内町の人も「うちの役場は財政がしっかりしているみたいですね(だいたい、「特に町には何にもないんですけどね…」と続く)」と言う。地理的にほとんど差がないこの2つの地方団体で財政状況が異なる理由は何か。この疑問について、普通地方交付税の観点から検討していきたい。2歳入と歳出どちらがより財政運営に効いてくるか~普通地方交付税について~「グラフ1に示されているように、海津市は人口が*2) 財政力指数は、地方公共団体の財政力を示す指標で、基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去3年間の平均値。財政力指数が高いほど、普通交付税算定上の留保財源が大きいこととなり、財源に余裕があるといえる。*3) より詳しいことが知りたい場合には、無料で入手できる資料としては、兵庫県の尼崎市作成のものが一番わかりやすいのではないか(「尼崎市における地方交付税の現状と課題」URL:https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_zaisei/kouhuzei/local_allocation_tax.html)。力作なので、交付税に興味のある方は、是非お目通しいただきたい。)減っている一方で、輪之内町は人口が増加している。また、輪之内町のほうが企業の誘致に積極的で工場も多い。そのため、市税収入が輪之内町は多くて、財政に余裕があるのだ」と歳入の面から考える地元の人が多い。確かに、財政力指数*2(令和元年度)を見ると海津市は0.49に対して、輪之内町は0.63となっており、輪之内町の方が勝っている。だが、この主張も正しいものの、(1)地方交付税という制度の建て付け上、地方財政の資金繰りについては、歳出のほうが大きな意味を持つこと(2)また、短期的に資金繰りを改善するためにはどうしても歳入の増加は時間がかかること。この2つの理由から、どちらかと言えば、歳出のほうに着目する必要がある。この章では、海津市と輪之内町の比較の前提知識として、地方交付税について簡単に説明させていただきたい。地方交付税は大変複雑な制度であるため、筆者の手に余ってしまうのが本音なのだが、ご容赦いただきたい*3。地方交付税の理解の第一歩として、「地方交付税には、2つの視点があること」に注意されたい。1つ目が「マクロの視点」と本文で呼ばせていただく見方であり、地方財政計画の中の交付税総額という意味での交付税であり、国家公務員の視点だとほとんどこちらの見方になる。もう一つは、「ミクロの視点」と記載させていただく考え方であり、個別の道府県、市町村が、各々いくら交付税がもらえるのかという観点である。地方公務員はほとんどこの視点から交付税を見ている。(この2つの視点が絡まりあっているのが地方交付税という制度であり、それゆえに大変わかりにくい制度なのではないかと個人的には考えている。)この投稿では、主に後者の観点から論じていくが、先にマクロの視点での地方交付税について、簡潔に記載させていただく。都道府県や市町村といった地方団体は、小・中・高等学校や、上下水道、消防、警察といった様々な民間とは異なるサービスを提供しているが、その財源は、地方税収で対応するのが原則である。他方で、地方団体の提供する行政サービスの水準は、生活保護のよう18 ファイナンス 2021 Jun.SPOT

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