ファイナンス 2021年6月号 No.667
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1海津市と輪之内町昨年のファイナンス11月号「地方創生の現場から(第9回)」に岐阜県海津市での地方創生や地方財政での取組みについて投稿させていただいた。とある人物から、「官僚は、もっと積極的に雑誌に投稿すべし」との金言をいただいたことがきっかけで、再度このファイナンスに投稿させていただくこととした。今回は、地方財政に絞って、書かせていただく。国の職員は、地方財政計画をはじめとしたマクロの視点にどうしてもなりがちだが、市役所の一財政担当職員というミクロの視点で、「海津市をはじめとした、歳入の多くを普通交付税に頼る基礎自治体がどのように財政の運営を考えていけばいいのか」について執筆させていただく。結論を先に言うと、「地方交付税法の、基準財政需要額に算入されない事業を見直し、「(地方交付税法で想定される)バーチャルな基礎自治体」に近づけば近づくほど、実質単年度収支が改善し、資金繰りが楽になる」ということを説明していく。それを説明する方法として、岐阜県西濃地域の隣接する市町、「海津市」と「輪之内町」がそれぞれ実施している事業を財政的に比較していく。聞きなれない言葉「バーチャルな基礎自治体」とはなんであろうか。それは、本記事をお読みいただければわかる。なお、文中の意見にわたる部分はすべて筆者の見解であり、所属組織の見解ではない。そして、誤りはすべて当方の責による。海津市がどういう市かは、11月号の投稿をお読みいただきたい。人口はだいたい3.4万人、面積は112平方キロメートル。川と堤防に囲まれた輪中地帯として知られている。平成の合併により3つの町(海津町、平田町、南濃町)が合併して誕生した新しい市である。平成の合併は昭和の合併と異なり、人口の目標数*1) 1990~2015年は国勢調査、2020年は住民基本台帳データ。値がなかったことで小さな町村が多数残ってしまったが、その1つが海津市の北に位置している輪之内町である。人口は1万人ほど、面積は22平方キロメートルで海津市よりも人口も面積も小さな町である。輪之内町もその名前のとおり、輪中地帯に位置している。当然だが、海津市と輪之内町の風景はよく似ている。電波少年という昔のテレビ番組の企画みたいに、目隠しをされて、海津市と輪之内町のどこかランダムなポイントに連れていかれたら、地元の人もここは海津市なのか輪之内町なのか一瞬わからなくなるのではないかと思う。そんな景色がそっくりの海津市と輪之内町だが、人口や財政については、海津市は人口が大きく減少しており財政が逼迫している一方で、輪之内町は人口が(1990年と比べて)増えていて、財政も比較的余裕がある。データでそれを見てみよう。グラフ1はそれぞれの人口の推移である*1。左軸が海津市の人口で、右軸が輪之内町の人口である。海津市は、1990年~2020年の間に(これは、ほぼ平成の期間に相当する)40,811人から33,966人と16.8%も人口が減少しているのに対し、輪之内町は、2010年の10,028人以降は減少しているとはいえ、8,335人から9,663人に岐阜県海津市 総務部 地方創生・行財政改革担当部長 髙木 康一普通地方交付税を踏まえて、基礎自治体の財政運営について考える~海津市と輪之内町の比較を通じてわかること~〈グラフ1〉海津市、輪之内町の人口の推移(1990年~2020年)25,00041,00010,50010,0009,5009,0008,5008,0007,50043,00039,00037,00035,00033,00031,00029,00027,0001990199520002005201020152020輪之内町15.2%8,38533,96610,02840,8119,663海津市▲16.8%海津(人)輪之内(人) ファイナンス 2021 Jun.17SPOT

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