ファイナンス 2021年6月号 No.667
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5.期待値マネジメントとCBDCのガバナンスCBDCには、その一見わかりやすそうなテーマ設定や、海外における取り組みの情報も相まって、様々な期待と懸念が寄せられている。そこで取り上げられるのは、利便性の高い決済の実現だけでなく、金融政策の新たな手段、通貨の国際化、経済外交、給付金の即時支給、犯罪や脱税の防止といったテーマもある。これらはどれも重要であるが、その機能の実現のために、CBDCのアーキテクチャーへのアドホックな変更要望が行われることは、制度の安定運用やエコシステム育成の観点からも好ましくない。そのためにも、CBDCがどのように運営されるべきかについては、個別のイシューは適切な議論の場で取り上げつつアーキテクチャー自体は安定が維持されることが重要である。仮にオープンイノベーションを企図してAPIを中心とした進展を想定するのであれば、その品質や使い勝手はアーキテクチャーとして対応せず、SDKのレベルでこまめに改善されていくことが望ましい。CBDCを巡る最大の論点の一つであるプライバシーの取り扱いと犯罪資金対策は、その二つがトレードオフにありかつ様々な見解のあるテーマである。日本では特に、個人情報をとりまく社会的なコンセンサスが未成熟な中、金融の世界を越えた幅広いステークホルダーとの合意形成が必要であり、かつ、一度決めたあとのスタンスの堅持も重要となる。このようなテーマで、CBDCのあり方が事後的に二転三転するようなケースがあると、利便性を提供しようとする開発者や、消費者から見た安定利用の期待値も大きく損なわれてしまう。そのような意味も含めてCBDCでは、中央銀行における金融政策とは異なるタイプの広報や世論形成が必要ともいえる。6.おわりに以上に、フィンテック事業者からみたCBDCの可能性と、検討に向けて期待するポイントを述べてきた。CBDCは前例のないトピックである上、広範な発展の可能性と、数多の周囲からの期待が寄せられており、結果的には幾重もの試行錯誤が求められるものでもある。しかしこの10年間、フィンテックと呼ばれる流れの中で、金融業とノンバンク事業者の協業が金融の新たな可能性を拓いてきたように、CBDCもまた、民間事業者の知見や技術が、公的な領域において活かされる機会として捉えられるべきであろう。社会の諸課題が包摂的なデジタル技術によって新たな解決の可能性を迎えている中、CBDCは次世代の社会のサービスを提供するプラットフォームとなることが期待される。当社としてもCBDCの発展をきっかけとした、決済のイノベーションを実現する一助となれればと考えている。図表2 ATMの諸機能をAPIで置き換えるイメージ現金引き出し残高照会預入れ振替通帳記帳振込取引中止公共料金その他お取り引き設定変更残高・入出金照会API(参照系)1)閲覧サービスとの連携認証2)定期的に自動取得を実施APIのリボーク(破棄)不安になったら、電代業側でも、銀行側でも、どちらからでもトークン(合鍵)を破棄できる振替API(更新系)同一名義人への振替は認証度合いを緩和してサービス提供できる振替API(更新系)公金収納等の信頼できる先への振替APIは継続で利用頻繁に使われない機能は金融機関のインターネットバンキングサイトに誘導振込API(更新系)振込先の追加時に認証を実施電子マネーチャージAPI(更新系)1)電子マネー口座との連携認証2)チャージ時に電子マネー側から都度指示を実施3)オートチャージについては振替APIを利用(出所)当社作成16 ファイナンス 2021 Jun.新しい通貨 CBDC特集

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