ファイナンス 2021年6月号 No.667
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である。たとえば、認知力の低下した親が行う送金に親族の同意取得を前提とする仕組みや、商品や証券の受け渡しと同時の支払いといったユースケースが考えられる。これらは手続きの効率化のみでなく、役務提供と支払いの間で発生する信用を不要とする価値もあり、応用的に考えれば様々な企業の運転資金や企業間信用の短縮・不要化につながるものである。そのようなまだ見ぬユースケースの可能性を見据えて、お金のあり方は、今の世界では見えていない選択肢も包含できるキャパシティを持つことが望ましい。4.イノベーションのあり方上記の機能の実現に向けては様々な方法論があるが、近年の銀行サービスの進展におけるオープンバンキングと呼ばれるイノベーションのあり方は、そのモデルの一つとなりうる。オープンバンキングとは、銀行口座への情報参照や取引指示を、一定の要件を満たす第三者が外部から接続して行う、銀行サービスの提供方法である。この仕組みでは、銀行がソフトウェアの開発をせずとも、たとえば自動化された会計ソフトが口座情報から帳簿を自動生成したり、給与の支払いを指示するといったことが可能となる。銀行と外部サービスはAPI(Application Programming Interface、ソフトウェア上の情報窓口)と呼ばれる方法で接続されており、利用者が銀行に対して、特定の手続きを行う合鍵の権限を、第三者に付与する形で利用される(図表1)。安全性の高いAPIを構築できれば、イノベーションを起こすために事業者が取るリスクと、システミックリスクを分離することが可能となる。この仕組みを応用すれば、銀行でいえばATMの主要な機能をAPIとして提供し、第三者のサービス上でその利便性を発揮することが可能となる(図表2)。電子的な取引となるため、現金の引き出しは不要なケースとなるものの、たとえば銀行口座への入金や第三者への送金、電子マネーのチャージといった機能をそれぞれAPIとして開発しておくことで、中央銀行が自らアプリを作成せずとも、様々な事業者がアプリの上でCBDCの機能を活用することが可能となる。安全性の高いAPIは、ログイン時および送金時に求めることになる認証のあり方や、利用者からみた入力のフォーマット、処理の手順などを丁寧に整備し、ソフトウェア開発キット(SDK)を配布することによって可能となる。ソフトウェア開発者にとっても、SDKのある開発であれば独自の開発による欠陥のリスクを減らすことができ、その分利便性を高める開発にリソースを割くことが可能となる。このような、周辺事業者が自らの利便性を高める期待をもって、エコシステムを育てていく営みはオープンイノベーションと呼ばれるが、中央銀行がそのプラットフォームとして機能することは理想的な未来像である。現に、このようなアイデアは、イングランド銀行におけるCBDCの検討においても参照されている。中央銀行がCBDCの機能は提供しつつ、一定の要件を満たす民間事業者が、利用者がCBDCを使いやすくなるアプリを提供するイメージが述べられている。図表1 銀行を例とするAPIの仕組み(1)アプリがデータ参照や取引指示を行う権利を認可(2)アプリにしか使えない合鍵を作製(3)合鍵を利用して情報取得/取引指示(4)サービス提供利用者アプリ金融機関(出所)当社作成 ファイナンス 2021 Jun.15新しい通貨 CBDC特集

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