ファイナンス 2021年6月号 No.667
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し、口座振替などを通じて多様な電子マネーとの連携も実現している。加え、預金と電子マネーとの相互運用性向上に向けて、全銀システムへのキャッシュレス決済事業者の参加や低コストかつ接続が容易な多頻度小口決済システム構築の検討が進むなど、利便性向上に向けて様々な進化に向けた取組が進められている。また、幅広い事業者により、新たな顧客体験を提供する電子マネーも拡大・進化している。一般利用型CBDCは、こうした民間通貨/決済手段のイノベーションおよび進化を補完・促進する形で設計されることが望まれる。加え、預金は信用創造を通じて生み出され決済手段として機能することで民間への資金供給を経済のライフラインとして支えている。仮に一般利用型CBDCが預金を代替する場合に預金が持つ資金供給を支える機能に影響が及び得る、何らかの信用不安発生時、より早いスピードで預金が流出し得るといったことが内外の研究で示されている。これにどう対応するかも重要な論点となる。また、一般利用型CBDCの社会実装をどのように官民で分担するかも大きな論点となろう。一般利用型CBDCを法貨として位置づける場合、国内の個人約1.2億人および法人約260万社が遍く利用出来るようにする必要がある。このためには、既存の預金・電子マネー・クレジットカード等と同様に利用者/加盟店/ネットワークでのシステム実装を進める必要があるほか、利用者/加盟店に利用を促進するための取組も必要となってこよう。昨年10月に公表された「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」*5では、一般利用型CBDCに期待される機能や役割の一つとして「民間決済サービスのサポート」が掲げられ、中央銀行と民間部門による決済システムの二層構造の維持が明示される等、一般利用型CBDCと民間通貨/決済手段は相互補完的であるという前提で検討が進められていると認識している。今後議論が進む中で、一般利用型CBDCと民間通貨/決済手段との補完性をどういった形で設計・実装するかが大きな論点となる。3.一般利用型CBDCの海外の動向と意味合い海外での一般利用型CBDCの検討状況は、各国のおかれた金融・経済環境に応じた意義・目的に応じて多様である。前述したBISの調査においても、CBDC導入の動機として、金融の安定性、金融政策上の含意、金融包摂、国内/クロスボーダーの決済の効率性、決済の安全性/強靭性等の多様な*5)日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」2020.10.9〈https://www.boj.or.jp/announcements/release_2020/rel201009e.htm/〉*6)Cheng, Jess, Angela N Lawson, and Paul Wong (2021). “Preconditions for a general-purpose central bank digital currency,” FEDS Notes. Washington:Board of Governors of the Federal Reserve System, February 24, 2021, https://doi.org/10.17016/2380-7172.2839意義が挙げられており、新興国の方が先進国よりも金融包摂への関心が強い等、関心度合いに濃淡があることが明らかになっている。既に一般利用型CBDCを発行している例として、バハマとカンボジアがある。2020年10月に「サンドダラー」を導入したバハマの特徴としては、国土が700を超える島から構成されるという地理的特徴が挙げられる。これを受け、意義・目的をバハマ全土における金融サービスへのアクセス向上、AML強化等に置いている。2020年10月に「バコン」を導入したカンボジアの特徴としては、国内における「ドル化」の進行が挙げられる。これを受け、意義・目的を、携帯電話を活用した金融包摂、決済の合理化、現地通貨建て取引の容易化等に置いている。発行には至っていないが実証実験を積極的に進めている国として、スウェーデンと中国が挙げられる。2017年に「eクローナ」プロジェクトを開始したスウェーデンの特徴として、銀行横断によるキャッシュレス決済「Swish」の浸透に伴う現金利用の著しい減少が挙げられる。これを受け、一般利用型CBDCの意義・目的を、現金流通減少下で金融包摂を維持するために公共財としてデジタル決済を提供することに置いている。近年「デジタル人民元」の実証実験を繰り返している中国は、意義・目的を明確に対外発信していないが、国民の決済データに直接アクセスすることによる犯罪・不正対応の高度化や寡占が進んでいる民間モバイル決済への対抗に置いているとの見方もある。こうした動きを受けて、日本でも調査・研究上のギャップを埋めるための取組を進めることがまずは必要である。さらに、先行する国々の意義・目的をそのまま日本に当てはめることは難しいため、日本ならではの意義・目的のあり方について議論を進めることが必要と考えられる。例えば、今年2月に公表されたFEDS Note*6には、一般利用型CBDC発行の前提条件として、(1)明確な政策目的(Clear Policy Objectives)の確立、(2)幅広いステークホルダーの支持(Broad Stakeholder Support)の確保、(3)確固とした法令上の枠組み(Strong Legal Framework)の構築、(4)堅牢な技術的基盤(Robust Technology)の確保、(5)市場の需要・供給双方における受容性(Market Readiness)の確保の5つが挙げられている。今後、民間金融機関として、一般利用型CBDCについての理解をさらに深め、意義・目的をはじめとした議論に積極的に貢献すると共に、預金の利便性向上や社会・経済活動全体のデジタル化に対応した決済の高度化に向けた対応を進めることが期待されていると理解している。 ファイナンス 2021 Jun.13新しい通貨 CBDC特集

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