ファイナンス 2021年6月号 No.667
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定している(図表2)。こうした二層構造のもとで、日本銀行は、CBDCというファイナリティのある中央銀行マネーを発行し、全体的な枠組みを管理する。一方で、銀行を始めとする仲介機関には、民間ならではの知見やイノベーションを通じて、CBDCという決済手段やそれを活用した多様なサービスを国民に提供したり、ユーザーフレンドリーなインターフェースの構築に取り組んだりしていくことが期待される。このように、決済システム全体の安定性と効率性を確保するためには、中央銀行と民間事業者による適切な役割分担が重要である。更に「取り組み方針」では、一般利用型CBDCが具備すべき5つの基本的特性を整理している(図表3)。第1に、CBDCは誰でも使えるという「ユニバーサルアクセス」、第2に、CBDCを安心して使えるものとするための「セキュリティ」、第3に、CBDCをいつでも、どこでも使えるものとするための「強靭性」が挙げられる。第4に、CBDCには、現金と同様の中央銀行マネーとして、「即時決済性」が求められる。第5に、CBDCがデジタル社会ならではの決済プラットフォームとして機能し得るためには、民間決済システムとの「相互運用性」が確保されることが必要である。2.実証実験日本銀行は、「取り組み方針」において、一般利用型CBDCに関し、従来のリサーチ中心の検討にとどまらず、実証実験の実施を通じて、より具体的・実務的な検討を行っていくことを明らかにした。その後、日本銀行内で必要な準備が整い、本年4月より実証実験を開始したところである。実証実験では、まずは「概念実証」(Proof of Concept)のプロセスを通じて、CBDCの機能や特性が技術的に実現可*3)本実証実験における「トークン型」とは、台帳上に、保有者IDと当該IDが保有するトークンID(識別可能な金銭データ)の群が記載され、保有者IDとトークンIDの紐づけを変更することで、送金等が実行されるシステムをいう。能かどうかを検証する。その第一段階である「概念実証フェーズ1」では、CBDCの取引を記録する「CBDC台帳」を中心に実験環境を構築し、決済手段としてのCBDCの中核をなす、発行、流通、還収に関する技術的な検証を行うこととしている。「CBDC台帳」について、概念実証フェーズ1では、1.台帳の管理主体(中央銀行のみか、中央銀行と仲介機関が分担するか)、2.決済の記録方法(口座型か、トークン型*3か)という2つの切り口を用いて、3つの設計パターンを構築し、決済処理プロセスの特徴や処理能力を比較することを想定している(図表4)。現在は、各パターンに関するシステム的な要件定義や実験環境の設計・開発を進めており、その後、実機での検証に移行する予定である。概念実証フェーズ1では、CBDCの基本的機能(発行、流通、還収)に関する検証に加え、将来、本番用システムを開発することとなった場合に備え、CBDCに関する追加的な機能拡張の実現可能性や容易性について、CBDC台帳の設計パターンごとに、机上にて比較・検証を行う予定である。検証の対象となる追加機能の候補としては、オフライン決済機能、CBDCへの保有上限・利用上限の適用、セキュリティや匿名性確保のための対策、CBDCへのプログラマブル性の付与、などが考えられる。概念実証フェーズ1の実施期間は、2022年3月までの1年間を想定しており、その目的が達成され次第、「概念実証フェーズ2」に移行する。この段階では、フェーズ1で構築した実験環境に、先ほど述べたCBDCの拡張機能などを付加して、その実現可能性などを検証する予定である。こうした概念実証を経て、さらに必要と判断されれば、CBDCの実際のデザインや機能を意識しつつ、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも検討して図表2 CBDCの発行形態ユーザー(個人、企業)日本銀行追加的なサービス仲介機関(銀行等)CBDCCBDC図表3 CBDCが具備すべき基本的な特性ユニバーサルアクセス強靭性セキュリティ即時決済性相互運用性■送金・支払に用いる端末、カード等の簡便性、携帯性■決済のファイナリティ■即時決済性■十分な処理性能■将来に備えた拡張性■民間決済システム等との相互運用性■決済の高度化等に適応できる柔軟な構造CBDC■偽造抵抗力■各種不正の排除■24時間365日利用できる■オフライン環境下でも利用できる10 ファイナンス 2021 Jun.

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