ファイナンス 2021年6月号 No.667
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1.日本銀行の取り組み方針CBDCとは、民間銀行が中央銀行に保有する当座預金とは異なる、新たな形態の電子的な中央銀行マネーである*1。CBDCは、中央銀行の負債であり、決済の手段として用いられる。また、当該国の法定通貨建てで発行されることを通じて価値尺度として機能する(図表1)。CBDCには大きく二つの形態がある。一つは、金融機関間の大口の資金決済に利用することを主な目的として、中央銀行から一部の取引先に提供される「ホールセール型CBDC」である。もう一つの形態が、個人や一般企業を含む幅広い主*1)本稿におけるCBDCの定義は、Committee on Payments and Market Infrastructures and Markets Committee, “Central bank digital currencies,” March 2018(https://www.bis.org/cpmi/publ/d174.htm)に基づいている。*2)日本銀行ホームページ(https://www.boj.or.jp/paym/digital/index.htm/)にて公表されている。体の利用を想定した「一般利用型CBDC」である。以下、本稿では、主として一般利用型CBDCに関する取り組みについて説明する。日本銀行は、昨年10 月、一般利用型CBDCを対象に、「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を公表した*2。そこで示した基本的な考え方は以下のとおりである。●内外の様々な領域でデジタル化が進む中、技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。●現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要。●このため、内外関係者と連携しながら、実証実験と制度設計面の検討を並行して進めていく。●現金に対する需要がある限り、今後も責任をもって現金の供給を続けていく。このほか、「取り組み方針」では、将来、一般利用型CBDCを発行する場合には、現在の現金と同様、中央銀行と民間部門による決済システムの二層構造を維持することが適当であるとしている。日本銀行は、日本銀行当座預金と引き換えに、銀行に対してCBDCを供給し、銀行は、銀行預金と引き換えに、企業や個人に対してCBDCを供給することを想中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の最近の取り組み日本銀行 決済機構局 決済システム課 デジタル通貨グループ 企画役 山田 健図表1 通貨の分類と残高媒体デジタル●物理媒体○発行主体中央銀行●民間○残高(2020/9月末)ホールセール中央銀行預金●●487兆円ホールセール型CBDC●●―一般利用銀行預金●○1,564兆円現金○●119兆円一般利用型CBDC●●―(注)銀行預金の残高は、国内銀行、在日外銀、農林水産金融機関および中小企業金融機関等における流動性、定期性、譲渡性預金の合計。(出所)日本銀行日本銀行は、本年4月に、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、以下「CBDC」)に関する実証実験を開始した。まずは、システム的な実験環境を構築し、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実用可能かどうかを検証する。そのうえで、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも視野に入れて検討していく。日本銀行では、現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要と考えている。本稿では、実証実験を含め、CBDCに関する日本銀行の最近の取組みを紹介する。 ファイナンス 2021 Jun.9新しい通貨 CBDC特集

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