ファイナンス 2021年6月号 No.667
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等)に関する仮想的な実証を行っているところであり、フェーズ1終了後、2022年度中に、周辺的な機能を付加した概念実証フェーズ2に移行する予定とされている。さらに、フェーズ1・2の後、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うこととされているが、パイロット実験を行うまでには、政府・日本銀行において、制度設計の大枠の整理が必要となることが見込まれる。(2)今後の検討の方向性今後の検討においては様々な論点が考えられるが、例えば、(1)CBDCの通貨法制上の位置づけや、日本銀行法における業務の位置づけ、(2)二層構造(間接型発行形態)における仲介機関の範囲・役割をどのように定めるか、などが主な論点になり得る。具体的には、(1)においては、貨幣と日本銀行券に限定さ*11)通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第2条第3項は、「通貨」として、「貨幣」及び日本銀行法第46条第1項の規定により日本銀行が発行する「銀行券」の2つのみを定義し、これ以外の通貨を予定していない。れている現行法上の「通貨」*11との関係においてCBDCをどのように整理するか、また、日本銀行当座預金や、民間銀行預金、電子マネー、QRコード決済といった民間決済サービスを含む幅広いマネーの概念の中でCBDCをどのように位置づけるのかといった点が、(2)においては、金融システムの安定や信用創造機能への影響、マネーロンダリング・テロ資金対策などの論点も関係してくる可能性が考えられることから、金融庁・日本銀行とも連携しながら検討していく必要がある。このように多くの論点が存在するCBDCであるが、社会・経済活動における取引実態の変化とイノベーションを取り込んできた通貨の歴史を踏まえれば、今後一段とデジタル化の進行が見込まれる中で、我が国も時代の流れに後れを取ることのないよう対応を検討していくことが重要ではないか。今後、政府・日本銀行において、概念実証の結果を踏まえ、制度設計の大枠を整理した上で、パイロット実験に関する検討を速やかに行うとともに、CBDC発行の実現可能性と法制面の手当てについて検討を進めることが必要となると思われる。その際、今や決済システムは、政府や中央銀行が発行する通貨をコアとしつつも、デジタル化した広大な民間決済サービスによって構成されていることを十分踏まえる必要がある。すなわち、急速にデジタル化が進む社会・経済のエコシステムの中で効果的に機能するようCBDCを適切に設計することにより、人々の生活や取引をより便利で豊かなものにしていくとともに、我が国の通貨・決済システムの競争力の確保を含め、我が国社会・経済の健全な発展、生産性・効率性の向上につなげていくという観点が必要と考えられる。なお、デジタル化された民間決済システムの広がりや、社会・経済活動への影響の大きさを踏まえると、CBDCを実際に導入する場合には、CBDCシステムの安定性・強靭性の確保の観点も重要であり、制度設計やセキュリティの検討を確実に行っていく必要がある。こうした観点に立ち、今後の検討に当たっては、本年3月に設置された日本銀行主催「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会」の機会を含め、金融機関や民間決済サービス事業者、事業会社、消費者等と幅広く対話し、ニーズや問題意識を丁寧に把握しながら、利用者にとってメリットを感じられる制度設計を検討し、急速に進むデジタル化の動きや国際的な潮流の中にあって、我が国が時機を逸することのないよう対応していくことが重要と考えている。実証実験の工程パイロット実験概念実証フェーズ2システム的な実験環境を構築し、CBDCの基本機能(発行、流通、還収)に関する検証を行う。→ 2021年4月に開始(1年間)フェーズ1で構築した実験環境にCBDCの周辺機能を付加して、その実現可能性などを検証。→ フェーズ1終了後、2022年度中に開始予定概念実証を経て、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも視野に入れて検討。概念実証フェーズ1出典:日本銀行資料より筆者作成8 ファイナンス 2021 Jun.

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