ファイナンス 2021年6月号 No.667
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2.諸外国におけるCBDCを巡る動向現在、中央銀行が当座預金とは別に発行する新たな形態の電子的なマネーとして、CBDC(Central Bank Digital Currency)に関する検討が諸外国において急速なスピードで進められている。2019年6月のリブラ構想の発表を受けて、グローバルステーブルコインが有する政策・規制上のリスクが各国で認識されたことも、2020年以降に各国がCBDCの検討を加速させた背景の一つとして考えられる。(1)中国中国においては、2020年10月以降、深圳・蘇州において、「デジタル人民元」を市民に配布して大規模なパイロット実験を実施し、北京・上海・香港などに順次拡大しているほか、同年10月には、デジタル人民元の発行に法的根拠を与える規定などを盛り込んだ「中国人民銀行法」の改正草案が公表された。また、中国人民銀行の李波副総裁は、2022年2月開催予定の北京オリンピックの期間中、国内ユーザーのみならず外国人にもデジタル人民元を利用可能にすると発言しており、発行に向けた準備が急ピッチで進められているものと見られる*6。上海市におけるデジタル人民元の実証実験の様子(提供:筆者知人)(2)米国米国においては、本年1月にバイデン政権になって以降、デジタルドルは「非常に優先順位が高いプロジェクト」(パ*6)Kharpal, A. (2021, April 18). China may test its digital currency with foreign visitors at the 2022 Beijing Winter Olympics. CNBC. https://www.cnbc.com/2021/04/19/china-may-trial-digital-currency-with-foreign-visitors-at-beijing-olympics.html.*7)Brett, J. (2021, February 23). Digital Dollar Redux: How Janet Yellen And Jay Powell Could Sync On CBDC. Forbes. https://www.forbes.com/sites/jasonbrett/2021/02/23/digital-dollar-redux-how-janet-yellen-and-jay-powell-could-sync-on-cbdc/?sh=5dd397d35e68.*8)Board of Governors of the Federal Reserve System. (2021, May 20). Federal Reserve Chair Jerome H. Powell outlines the Federal Reserve’s response to technological advances driving rapid change in the global payments landscape [Press release]. https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/other20210520b.htm.*9)European Central Bank. (2020). Report on a digital euro.ウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長、2月)、「中央銀行がCBDCに目を向けることは理にかなっている」(イエレン財務長官、2月)など、以前よりも前向きな発言が見られるようになっている*7。本年5月には、パウエルFRB議長が、米国におけるCBDCの利点とリスクをまとめたディスカッションペーパーを本年夏に公表すると発表し、CBDCの設計に当たっては、金融政策、金融の安定性、消費者保護、法律、プライバシーなどの考慮すべき事項があり、慎重な検討が必要としつつ、FRBはCBDCの国際標準策定において主導的役割を果たすと発言した*8。また、ボストン連邦準備銀行とマサチューセッツ工科大学(MIT)は、デジタル通貨プラットフォームの構築に向けて共同研究を行っており、本年半ば以降、第一段階の研究成果を発表するとしている。(3)欧州(ユーロ圏)ユーロ圏においては、2020年10月、欧州中央銀行(ECB)が「デジタルユーロに関する報告書」を公表し、CBDC発行の必要性が生じた際に備えて準備を進めておく必要があるとの認識の下、デジタルユーロの基本原則や、考え得る発行シナリオを整理している。同報告書の中で、ECBは、本年半ばに、デジタルユーロに関する実証実験を開始するか否かを判断する予定としており*9、今後数カ月以内に判断が下されると見込まれる。(4)途上国バハマとカンボジアにおいては、2020年10月から、それぞれ独自のデジタル通貨である「サンドドル」「バコン」の正式運用をすでに開始している。各国の動き中国●2020年10月以降、深圳・蘇州において、デジタル人民元を市民に配布して大規模なパイロット実験を実施。北京・上海・香港などに順次拡大中。●2020年10月、中国人民銀行が中国人民銀行法の改正草案を公表。●2022年2月開催予定の北京オリンピックでは、外国人にもデジタル人民元が利用可能となる見込み。6 ファイナンス 2021 Jun.

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