ファイナンス 2021年5月号 No.666
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を果たすのだろうと思います。ブリンケン国務長官もバイデンとの距離の近さから、大きな影響力を持つでしょう。オースティン国防長官は若干、未知数です。バイデンは外交通と言われています。これは政策的な知見がある政治家というよりは、そこにいる人たちを知っていて、人と人を繋いで合意をしていくタイプの政治家だということでしょう。ですから、どれだけ本当に外交に関して知見があるのかということは、かなり大きなクエスチョンマークをつけたほうがいいですし、特にアジア太平洋地域については、あまり目立つ人ではありません。(2)バイデン政権と日本との関係アジア政策については、まず間違いなくカート・キャンベルが取り仕切ることになるだろうと思います。少なくとも米国にとってアジアが一番重要な地域であること、アジアというのは一番問題もあるけども可能性も秘めていること、アジアと向き合うときに日本が最も重要なパートナーであるということ、こうしたことを、カート・キャンベルとその周辺は認識していると思います。ですから、何かこの地域で大きなことをやろうとするときに、日本と相談して、日本がどういうふうに考えるか、ということに注意を払う、これはかなりはっきりしています。ですから、両国首脳間の相性、パーソナルケミストリーに過度に頼る必要はないということは言えるだろうと思います。そこはトランプ時代とは異なります。(3)共和党の動きと第3政党結成の可能性共和党は保守というラベルを捨てることはできないと思いますが、共和党に今問われていることは、どういう考えに依拠した保守主義なのかを大きく見直して、新しい保守主義の形を組み立てることができるのか否かだと思います。ただ、人口構成の観点からみて、当面は共和党を白人政党として構築していけば、選挙に勝てる可能性を示したのが、トランプだったと思います。白人票を固めて勝つというトランプ的な戦い方は、筋力を高めるためにステロイドを打って選挙に臨むというような状況です。こうしたステロイドを打ち続ける解決策を選ぶのか、それとも共和党が改革に向かうことができるのかはなかなか見えてきません。第3政党については、あくまで理論的可能性ですが、まさに今お話した、共和党が自らを見直す中で、「トランプ的なるもの」をそぎ落とさなければいけないとなったときに、トランプ派がごっそり抜ける場合です。すなわち、トランプ大統領を支持した7,400万人の8割である6,000万弱、その四分の一に当たる1,500万人が抜けると、1,500万人から支持を受ける巨大第三政党が出来上がります。それが共和党を必ず敗北させる状況に追いやり何らかの地殻変動に至るということはあるかもしれないのですが、具体的な変動の形は、今なかなか見通せないという状況です。(4) いびつなソーシャルメディア空間が生み出すカルトや陰謀論が日本政治に与える影響海外の人から「なぜ日本では本格的で反動的なポピュリスト運動がないのか」と問われたときに私が常に言うのは、日本人はまだフィルターが効いたオールドメディアがどうにか生き残っていると答えています。それから、ソーシャルメディアがまだ政治空間を呑み込んではない。ツイッターの負の空間に貯まったエネルギーを煽って刺激して、嘘と本当をないまぜにして支持者を確立しようとする動きは見られません。日本は小選挙区なので、ソーシャルメディアを使いつつも、実際に人に会って話すことが有効です。それが、ソーシャルメディアが政治を呑み込んでいくことの一つの防波堤になっているのかなと思います。ただ、変な動きは出てきており、注意は必要かなと感じています。ご清聴ありがとうございました。(研修主催者の責任において、講演内容の構成を一部変更しています。)講師略歴中山 俊宏(なかやま としひろ)慶応義塾大学総合政策学部教授青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科国際政治学専攻博士課程修了。ワシントン・ポスト紙極東総局記者、日本政府国連代表部専門調査員、日本国際問題研究所主任研究員、ブルッキングス研究所招聘客員研究員、津田塾大学国際関係学科准教授、青山学院大学国際政治経済学部教授等を経て、2014年4月より慶応義塾大学総合政策学部教授。専門はアメリカ政治・外交、国際政治、日米関係。主な著書に、『アメリカン・イデオロギー』(勁草書房)、『介入するアメリカ』(勁草書房)、『アメリカにとって同盟とはなにか』(共著、中央公論)、『オバマ・アメリカ・世界』(共著、NTT 出版)など多数。68 ファイナンス 2021 May.職員トップセミナー 連載セミナー

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