ファイナンス 2021年5月号 No.666
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好きでが、いざスポットライトが外れると政策的な関心は全くない。オバマもトランプも劇場空間としての政治は大好きですが、退屈な本当の政治にはほぼ関心を持っていません。それと全く対照的なのがバイデンです。バイデンは73年に上院議員になりました。その頃の上院議員には、まだマンスフィールドなど上院の巨人たちがいました。そこで民主党員であるよりも共和党員であるよりも先に、上院議員として、譲歩して、妥協して、何らかの合意を取りつけることが上院議員としての能力であり、政治家としての美徳だということが、体質として染み付いています。オバマとトランプは、ワシントンに対する不信感があり、アンチ・エスタブリッシュメントであって何か全く違うものをワシントンに持ち込み、12年間で結局二人はワシントンを機能不全にしてしまいました。私は、「歴史の女神」なんて信じませんが、「今回はあなたの番ですよ」とばかりにバイデンという「型」の政治家がうまくはまった、というのが今回の出来事だろうと思います。バイデンが偉大な大統領になるということは考えにくいのですが、彼は能力をフルに生かして上院と直接やり合うでしょう。問題が10あるとすれば10解決できるような法案は決して目指さず、例えば6とか7ぐらいのところを目指す。共和党がこれに乗ることができるならば、おそらくバイデンは、この瞬間、米国がまさに必要としていた大統領だったということになります。米国人がそのことに改めて気付かされた、就任式はそういう瞬間だったのだろうと思います。バイデン自身は言及していませんが、おそらく2期目はないということを、皆、漠然と感じていると思います。そうであれば、一年目はコロナ対策に掛かりっきりになり、二年目の2022年には中間選挙があります。もし仮に2期目に出馬しないとすると、もうそこで後継を指名しなければいけなくなり、バイデン政権後半はレームダック(死に体)状態ということも十分にあり得ると思います。ですから、バイデンは、非常に制約された時間内で、まさに歴史の神に3回目の挑戦で与えられた使命に応えていかなければならないという状況にあるのだと思います。バイデンはトランプじゃないということで選ばれただけだという言説が独り歩きしていましたが、そのことは1月6日と就任式の雰囲気でおおよそリセットされました。トランプはアメリカが実験国家であることをある意味放棄しました。しかし、バイデン政権が発足して、まだ米国の実験が続けられるかもしれないと、皆、少なくとも瞬間風速的には思っています。この状況を、国家の機運として読み解いておくことは重要なのではないかという気がします。8.最後に:いくつかの論点について(1)新政権の中国への対応バイデン政権は中国に対して甘くなるのではないかという懸念が日本には非常に強くあります。特に外交安全保障の面で懸念があるわけですが、米国の中国に対する認識がかつてとは全然違うので、そこをあまり心配しなくてもいいのかなと私は考えています。今、まさに国防長官のロイド・オースティンと国務長官のアントニー・ブリンケンの指名・承認に向けた公聴会が上院で行われています。そこでその両人が証言するに当たって準備された冒頭の演説を見てみますと、両方の演説において、中国がしっかり明記されています。ですから、政権の中で、中国は米国にとって最も重要な戦略的な競争相手だという認識は、かなり強く共有されていると考えていいと思います。ではトランプ政権と全く同じなのかというと、それは多分そうではありません。トランプ政権は対決的な姿勢一本でした。しかし、おそらくバイデン政権の対中政策というのは、協調と競争と対決が混じり合っている。さらに争点もたくさんあり、そして単に米中という話ではなくて、パートナーと同盟国をも巻き込みながらやっていくということで、変数が非常に多くなると思います。非常に洗練された、望ましい対中政策です。NSC(国家安全保障会議)には、日本人として馴染み深い人、よく知っている人、それから新しい人が入っています。例えばインド太平洋担当のカート・キャンベルや、気候変動担当特使のジョン・ケリーは、われわれもよく知っています。NSCがどれだけ効率的に動けるのか、しっかり見ていかないと分からないと思いますが、現時点で言えるのは、比較的ホワイトハウスが中心の外交になり、そしてNSCが大きな役割 ファイナンス 2021 May.67職員トップセミナー 連載セミナー

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