ファイナンス 2021年5月号 No.666
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(3)持ちこたえた制度ペンス副大統領はトランプ陣営が企画した大統領退任イベントには一切出席せず、1月20日の大統領就任式に出席しました。1月6日の連邦議会議事堂乱入事件で死者が出てしまい、権力の平和的な移譲には失敗しましたが、最後のギリギリのところ、まさに新しく大統領に就くチームが現職を送り出すという儀式にペンス副大統領が参加したのです。BBCはペンスのことを「トランプ大統領に奴隷的なまでに忠誠なペンス副大統領」と論評してきましたが、最後の最後で制度の側に立って、アメリカンデモクラシーのかたちをどうにか保つ方向で動きました。共和党院内総務のマコーネルについてもそれは同じだと思います。トランプ大統領の弾劾裁判において共和党上院議員7名が弾劾に賛成する票を投じましたが、弾劾裁判における一票というのは、党派的な一票ではなく、良心に基づいた一票だということを発言しているわけです。(4)トランプの読み違いトランプ政権として、もしくはトランプとして読みが外れたのは、1月6日にあそこまでの状況になるとは想像してなかったということでしょう。自らある種モンスターみたいなものを作り上げてしまい、それを制御できないような状況を突きつけられたわけです。このようなトランプカルトについていけないトランプ支持者が相当数離れたと思います。ですから、2024年のトランプ再出馬というのは、ゼロとは言いませんけども、かなり可能性としては低くなりましたし、「トランプ現象」を引き継ごうとして積極的に手を挙げていた、例えばポンペイオ国務長官、テッド・クルーズ上院議員、ジョシュ・ホーリー上院議員のこれからの設計図は、大分揺らいだのかなという感じがします。7.バイデン政権発足(1)就任式から読み取れたもの今回の大統領就任式を見ていて、我々は演壇の方を見ているのでいつもとはあまり変わらない風景でしたが、カメラを反転させると全くの空っぽの空間で、コロナを巡る状況の難しさと1月6日以降ここに人を入れるというのは危険過ぎるという米国が直面している状況をその場自体が象徴していたと思います。(2)就任演説の「普通さ」バイデンの演説は、印象としてはあまりに普通です。大統領として言わなければいけないことを取りあえず全部言った、米国は一つにまとまらなければならない、そして問題を乗り越えていかなければいけない、といった内容的にもあまりにも平凡なスピーチです。バイデンは、決してオバマのように、もしくはトランプのように、そこにいる人たちの気持ちを演説の最後に向けて煽りながら話すというタイプでは全くありません。彼は若い頃、吃音があったということがよく知られていますが、若干つかえながら平凡なスピーチをしました。普通の状況ならば、これは即座に忘れ去られるような演説でしたが、米国人はそれに感動したのだと思います。多くの人がバイデンの就任式で泣くということは想定していなかったと思います。今回、米国人が普通であることを熱狂的に支持したわけです。普通であることへの期待は非常に大きかったと思います。オバマ時代とトランプ時代は、共通して劇場型の政治をして、まさにそこに参加する人たちが興奮し、全人格的にそこに没入していました。しかし、バイデンは、オバマやトランプの劇場型政治をリセットして、政治をもう一度退屈なものにしてくれるという空気を、就任演説で国民に伝えることができたのだろうと思います。(3)譲歩、妥協して合意を取り付ける能力バイデンはご承知のとおり、1973年から2009年の1月までずっと上院議員を続けて、その間、大統領選に2回出馬し、2009年1月から2017年1月までは8年間、副大統領を務め、今は70代後半です。もういいだろうと皆思っていたのですが、3回目の大統領選に挑戦するわけです。多分ワシントンの空気とか、政治が大好きなのでしょう。オバマは、遠くにある目標を提示することがとても得意な政治家でした。しかし、そこに至る道を舗装して、その予算を取りつけるという日常的な意味での政治について関心が希薄な政治家でした。トランプは、自分にスポットライトが当たっている限りは政治が大66 ファイナンス 2021 May.連載セミナー

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