ファイナンス 2021年5月号 No.666
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令和2年はコロナ禍で減少するも件数、押収量ともに高い水準で推移財務省・税関では、不正薬物、銃砲等のいわゆる社会悪物品の国内流入阻止を最重要課題の一つとして位置づけ、取締りを強化している。とくに不正薬物は、海外でつくられて日本に持ち込まれるケースがほとんどであるため、水際で阻止することが国内の薬物乱用防止に最も寄与すると考えられる。また、不正薬物の取締りは税関だけでなく、警察や厚生労働省の麻薬取締部、海上保安庁などと連携して取組んでいる。不正薬物の取締り実績については、毎年2月に公表されているが、令和3年2月17日に公表された「令和2年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況」によると、不正薬物全体の摘発件数は733件で押収量は約1,906kgと5年連続で1トンを超えた。令和元年と比較し、令和2年の押収量が減少しているが、新型コロナウイルスの感染拡大により、海外との行き来が規制されたことや、令和元年には、覚醒剤の大口の摘発が相次いだこと等が一因として考えられる。これらの事情を加味しても、令和2年における不正薬物全体の押収量は高水準であったと言える。とくに平成28年から令和2年までの5年間は、それ以前の5年間と比較し、押収量の水準が一段上がっており、不正薬物が以前にもまして日本に向けられている可能性があり、より深刻な状況になっていると考えられる。過去5年の押収量が1トンを超える中で、とくに目立ったのは「覚醒剤」だ(図表1)。令和2年は約800kgにとどまったが、それ以前の4年間では1トンを超える状態が続いていた。警察庁の統計によれば、国内の薬物の検挙者数の中でも薬種別に見ると覚醒剤が最も多く、また、覚醒剤犯罪は、伝統的資金獲得犯罪として暴力団等の有力な資金源になっていると言われており、覚醒剤の取引等によって、犯罪組織が利益を得ていることが窺われる。密輸手口も巧妙化しており、令和2年には、冷凍のぼたん海老等と記載の箱に隠匿された覚醒剤約239kgを摘発したケースや、ステーキ用石板に練りこまれた覚醒剤約113㎏を摘発したケースもあった。図表1 不正薬物の摘発件数と押収量の推移01,0002,0003,0004,00005001,0001,5002,000(摘発件数:件)(押収量:kg)H23H24H25H26H27H28H29H30R1R2その他件数覚醒剤大麻(注)「その他」とは、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物をいう。令和2年の数値は速報値。令和元年は、平成31年1月から令和元年12月を示す、以下同じ。不正薬物の種類別摘発状況覚醒剤の密輸が高い水準で推移犯罪組織の資金源になる可能性も ファイナンス 2021 May.3押収量は5年連続で1トン超に全国の税関における不正薬物の取締り状況特集

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