ファイナンス 2021年5月号 No.666
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(1)クリントン政権クリントン政権は、70年代の民主党がかなり左傾化したので、もう一度リセットして、レーガン以降の保守主義が優勢な時代におけるリベラルな政治の在り方を模索しました。しかし、共和党が優勢な議会が牙を剥いたということもありますし、本人のスキャンダル等によって大統領という職位を汚したということで、その後の深い分断の予兆となるような深い亀裂を生みだしてしまいました。(2)ブッシュ政権次のブッシュ政権で大統領自身が目指していたのは「思いやりのある保守主義(Compassionate Conservatism)」という統治思想の実現でした。すなわち、米国はニューディール以来のリベラルな政策によって、建国の理念に反するような巨大な連邦政府を作り上げてきましたが、それをリセットするためには「思いやりのある保守主義」しかなく、それは米国社会のグラスルーツにある相互扶助の精神や信仰に基づいて社会的弱者をコミュニティが救い上げる取組みを政府が活性化することであり、それこそが政府の役割なのだ、という考えです。ブッシュ政権は、「思いやりのある保守主義」を前面に出したものの、イラク戦争、対テロ戦争等々により、結果として政権が発足したときよりも遥かに大きい形で亀裂を作って次の政権に引き渡すことになりました。(3)オバマ政権オバマ政権の場合には、亀裂の克服そのものがおそらく最重要アジェンダだったと思います。2004年のケリーを大統領候補として指名した民主党の党大会で、今では「ザ・スピーチ」と呼ばれるスピーチにおいて、オバマ(当時民主党上院議員)は、「保守の米国もない、リベラルな米国もない、米国は一つなのだ」ということを訴えました。しかし、オバマ政権では、オバマが象徴していた変化に対する反動を呼び起こして、結果として非常に深い分断、ある意味、純粋な二極分化を完成させてしまったのだと思います。このように、いずれの政権も、政治的な亀裂の克服を提唱はしても、結果として政権発足時よりも二極分化を加速させて退陣しています。4.トランプ政権と政治的分断(1)「オバマ的なるもの」への抵抗トランプ政権は、それまでの各政権とは違い、亀裂を乗り越えようとする試みをおそらく一切放棄し、むしろ政治的な分断に潜むエネルギーを解き放ち、リベラル派に対する敵意を基盤にして、自らの陣営を固めていったことが特徴だったと思います。この「トランプ的なるもの」というのは、ある時、トランプと共に突然出現したわけではなくて、「オバマ的なるもの」に対する抵抗として2009年1月、もしくは2008年にまで遡ることができると思っています。それはペイリン現象(2008年の大統領選挙における共和党副大統領候補サラ・ペイリンの言動が注目を集めたこと)であり、それを引き継ぐ形で出てきたティーパーティー運動(オバマケアが必然的にもたらす連邦政府肥大化に対する抵抗運動と一般に理解された)です。振り返ってみると、ペイリン現象と同じで、ティーパーティー運動は、オバマが象徴するような変化に対する違和感により突き動かされていたということが、かなりはっきり見えてくると思います。(2)ソーシャルメディア空間の発展と政治こうした敵意や怒り、不満は、どの時代にも人々の間にあったと思いますが、2010年代に入って決定的にそれまでと違うのはソーシャルメディア空間の影響です。SNSは、地元の政治家や何らかの利益団体、政治団体というフィルターを一切取り払って、むき出しの怒りや不満、衝動が直接ワシントンを直撃し、それに政治家は驚くわけです。ティーパーティー運動のようなものが出てきたときから、政治家は運動をリードするのではなく、人々の怒りをフォローすることが仕事になり、そういう情報環境がトランプ以前からあって、それが「トランプ現象」という形へ繋がってくるのだと思います。(3)分断に潜む政治的エネルギーを動員「トランプ現象」の特徴は、分断に潜む政治的なエネルギーをとにかく動員していくものです。統合の64 ファイナンス 2021 May.連載セミナー

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