ファイナンス 2021年5月号 No.666
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.米国における政治的な二極分化今年1月6日に、米国で連邦議会占拠という想像を絶するような事件が起こり、トランプ政権の最後、そしてバイデン政権発足の背景が大きく変わりました。今、我々は米国が直面している分断の意味をきちんと踏まえて新政権の発足を理解する必要があると思います。本日は「バイデン政権発足の歴史的意味~政治的分断を乗り越えられるのか~」という演題でお話をします。おそらくここ30年ぐらいでしょうか、政治的な二極分化ということが米国政治を語る際の一つのキーワードになっています。政治的な二極分化が行き着くところまで行き、中央(センター)が死んでしまっている状況、すなわち「デッドセンター」という状況に、今の米国政治は拘束されているということがよく言われています。ピュー・リサーチ・センターが行った政治的な二極分化についての調査によると、1994年では、民主党支持層の中にもかなり保守的な人がいる一方で、共和党支持層の中にもかなりリベラルな人がおり、少なくも潜在的には政治的な合意を模索することができました。二大政党制がうまく機能するためには、このような有権者の意識分布になっている必要があると思います。ところが、2017年は1994年に比べ共和党支持層はより保守的に、民主党支持層はよりリベラルになっています。1994年当時の有権者の意識分布では、例えば民主党であれば選挙に向けた戦略は、平均的な党の立場よりも政策的な軸を若干右に置いて共和党のリベラルな人も取り込むことによって多数派を形成するものになりますが、2017年のような意識分布では、共和党のリベラルな人を取り込みにいかず、自陣営を徹底して固める戦略がとられるようになります。自陣営を徹底的に固める戦略を選挙のたびに繰り返していくと、右側と左側の考え方の差が広がり、結局真ん中の活力が失われ、その結果、中央の考え方が死んでいく。今の米国はそういうデッドセンター化の状況であると理解していいだろうと思います。また、ピュー・リサーチ・センターが行った別の調査によれば、かつて米国では政治的な価値観に影響する最も重要な属性は「人種」でした。ある争点に関して、黒人であるか、白人であるかということを見れば、ある問題に対するその人の態度がほぼ明らかになったわけですが、今は人種や宗教、教育、年齢、ジェンダーよりも、「どの政党に属するか」ということが、あらゆる問題に関する態度を決定してしまっているという結果が示されています。さらに、案件ごとにどれだけ党派的な違いがあるかという調査では、例えば自由に関わる問題や人種に関わる問題、気候変動に関わる問題は、とにかく「民主党か共和党か」ということで、ほぼ態度の取り方、その問題についてどういうスタンスなのかということが決定されてしまうことが分かっています。2.90年代以降加速する分断化の背景(1)冷戦の終焉メディアではトランプが米国を分断させたとよく言われますが、実は分断のルーツはかなり前に遡ることができます。それはおそらく90年代初め頃だろうと令和3年1月22日(金)開催中山 俊宏 氏(慶応義塾大学総合政策学部教授)「バイデン政権発足の歴史的意味 ~政治的分断を乗り越えられるのか~」演題講師職員 トップセミナー62 ファイナンス 2021 May.連載セミナー

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