ファイナンス 2021年5月号 No.666
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DTAの資産性について・税効果会計では、税務会計と財務会計における差異を調整するために、DTA・DTLが計上される。例えば、N期に損金として認められなかったが、財務会計上認識した費用については、その費用に税率を乗じた金額をN期に前払いしたと考え、法人税等調整額として法人税等合計から減じ、DTAを資産計上する。翌期に損金として認められた場合は、DTAを解消し、同額を法人税等調整額として税金費用に加える(図表7)。・DTAが会計上の資産として計上されるのは、税負担軽減の対象となる課税所得が将来に存在することが前提であるため、将来に十分な課税所得が見込めなければ、資産として計上することは不適切となり得る。そのため、我が国では1999年の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」以降、過去の業績等により企業を分類し、その分類に応じて計上額を決定することを基本としている(図表8)。図表7 税効果会計の適用によるDTA計上の例N期N+1期損益計算書売上⾼200200貸倒引当⾦繰⼊(損⾦不算⼊額)30その他費⽤150150税引前当期純利益2050 法⼈税等156 法⼈税等調整額▲99法⼈税等合計615当期純利益1435貸借対照表DTA9▲9(注)法⼈税率は30%と仮定図表8 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(2015) による分類区分判定条件資産計上額課税所得の発⽣重要な⽋損⾦が過去3年以内に発⽣分類1⼀時差異を⼗分に上回る額が毎期発⽣無原則⼀時差異の全額分類2⼀時差異を下回るが安定的に発⽣無スケジューリング可能な⼀時差異分類3発⽣額に⼤きな増減あり無スケジューリング可能な⼀時差異のうち、⾒積もり課税所得の範囲内で5年以内に解消予定のもの分類4翌期に発⽣する⾒込みが⾼い有、または⽋損⾦の期限切れが有スケジューリング可能な⼀時差異のうち、⾒積もり課税所得の範囲内で翌期に解消予定のもの分類5タックスプランニングにより翌期発⽣が確実過去3年から当期まで連続して有スケジューリング可能な⼀時差異のうち、タックスプランニングによる課税所得により翌期に解消予定のものコロナ禍における税効果会計・上述のように、回収可能性の判断には過去の業績が重視されるが、コロナ禍が長期化した場合、赤字が長引く企業が増加すると考えられる。足元では減少傾向にあるものの、2020年度の赤字企業数は増加しており(図表9)、繰越欠損金を計上する企業が増える可能性がある。・しかし、将来の業績予想が難しいコロナ禍においては、新たに計上する繰越欠損金の資産性の有無について、企業の分類変更の必要性を踏まえた慎重な検討が必要とされる。また、DTAが前年から増加した企業数は近年増加傾向にあるが(図表10)、すでに計上されているDTAの資産性についても見直す必要が生じ得る。・そのため、コロナ禍が長期化した場合、損失としてDTAを取り崩す必要に迫られる企業が出てくると考えられる。純資産に対するDTAの比率は近年上昇傾向にあるが(図表11)、DTAの比率が高い企業が取り崩しを行った場合には、足元の業績に基づく想定以上に、財務状況が悪化する可能性に留意する必要があるだろう。図表9 赤字企業数の推移(注)JPXの業種分類に基づく年度累計での赤字企業数08006004002002018201920201Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q(社)製造業運輸・情報通信業サービス業金融・保険業その他(年度)図表10 DTAが前年から増加した企業数08006004002002005101519(社)(年度)図表11 純資産に対するDTAの比率201015190108642(%)(年度)(出典)日本政策投資銀行設備投資研究所「日本における税効果会計制度の概要と上場企業の適用状況」、荻窪輝明「税効果会計と財務諸表の視点」、FactSet、国税庁「会社標本調査」、企業会計基準委員会「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2021 May.57コラム 経済トレンド 83連載経済 トレンド

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