ファイナンス 2021年5月号 No.666
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コラム 経済トレンド83大臣官房総合政策課 調査員 志水 真人コロナ禍における税効果会計本稿では、コロナ禍の下で、税効果会計がどのように会計上の利益に影響を与えるかを考察した。税効果会計とは・税効果会計は、企業が行う財務会計の開示の質を向上するために用いられている制度である。財務会計はステークホルダーへの情報提供を目的とし、配分可能な利益等の計算を行う一方、税務会計は課税の公平性を目的とし、所得とそれに基づく税金の計算を行う会計制度である。・財務会計は、収益から費用を差し引いて当期純利益を算出し、税務会計は益金から損金を差し引いて課税所得を算出する(図表1)。しかし、上述のように財務会計と税務会計は目的が異なるため、収益と益金、費用と損金は一致せず、当期純利益と課税所得には差異が生じる(図表2)。・両者の差異は、その性質に応じて「永久差異」と「一時差異」に分類され(図表3)、このうち将来的に解消される「一時差異」を調整する仕組みが税効果会計である。図表1 当期純利益と課税所得の関係費用-=-=損金税引前当期純利益課税所得収益益金税法による別段の定め図表2 財務会計と税務会計における 差異の例益⾦不算⼊となる場合がある収益受取配当⾦法⼈税・所得税等に係る還付⾦損⾦不算⼊となる場合がある費用役員報酬・賞与交際費・寄付⾦減価償却費引当⾦繰⼊額資産の評価損図表3 差異の分類と内容内容永久差異当期純利益と課税所得の差異が翌期以降も解消されない差異(例)・受取配当⾦の益⾦不算⼊額・交際費・寄付⾦の損⾦不算⼊額⼀時差異認識時点のズレによる差異で、将来解消される可能性が⾼い差異(例)・貸倒引当⾦の繰⼊限度超過額・その他有価証券評価差額DTA・DTLの動向・損益計算書における一時差異の調整には、法人税等調整額が用いられる。法人税等調整額の規模感を確認すると、東証一部上場企業の法人税等調整額(負値の場合、会計上の利益にはプラスに作用)は、リーマンショック直後に会計上の利益に対して大きなプラスの効果を示し、その後しばらく大きなマイナスの効果を示したが、2010年代半ば以降は概ねゼロ近傍で推移している(図表4)。なお、「会社標本調査」によれば、繰越欠損金残高はリーマンショック直後に大きく増加し、その後減少しており、繰越欠損金の変動がその時期の法人税等調整額の変動に大きな影響を与えていたと考えられる(図表5)。・貸借対照表における一時差異の調整には、繰延税金資産(DTA)・負債(DTL)が用いられ、その規模は図表6のように推移している。DTAの増加要因としては引当金や繰越欠損金の計上、資産の減損等が挙げられ、DTLの増加要因としてはその他有価証券の評価益等が挙げられるが、それらの中には、その他有価証券の評価損益のように、貸借対照表にのみ影響し、法人税等調整額には影響を与えないものもある。図表4 法人税等調整額が純利益に 与える影響(注)法人税等調整額(符号逆転)/純利益(注)東証一部上場企業の単体ベース▲10010204030▲20▲301915102005(%)(年度)図表5 繰越欠損金残高の推移60708090100501815102005(兆円)(年度)図表6 DTA・DTL残高の推移(純額)DTADTL(符号逆転)(兆円)▲20▲1001020(注)企業ごとの純額を合計(注)東証一部上場企業の連結ベース(図表9,10,11も同様)▲301915102005(年度)56 ファイナンス 2021 May.連載経済 トレンド

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