ファイナンス 2021年5月号 No.666
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短期的な緊急支援と中期的な支援の間に切れ目のない連続性を持たせることが目指された。さらに、ADBは、IMF、世界銀行といった国際開発金融機関だけでなく、国際連合児童基金(UNICEF)、国際連合開発計画(UNDP)や国際移住機関(IOM)といった国連機関、国際協力機構(JICA)といったバイの支援機関とも緊密な連携をはかり、機関の間でどう分担をして、重複を避けながらも包括的にモルディブ政府の政策パッケージを支援していくか、集団的に検討を進めていった。政策パッケージの内容が概ね固まってくると、次のステップとして、CPROの支援対象となる政策パッケージの具体的な予算案、CPROの進捗をモニターするためのツールである立案・検証フレームワーク(DMF:design and monitoring framework)の達成目標指標(target indicator)、そして政策パッケージの実行を支援するための技術協力(TA:technical assistance)の内容についてADBとモルディブ政府の間で正式に合意する必要がある。通常であれば、このためにFact-Finding Missionという出張ミッションを行い、現地に赴いて、ADBと相手国政府との間で対面で協議を行う。しかし、パンデミック下では国をまたいだ移動が困難であったため、代替手段として、4月20日にオンライン会議を開催し、支援内容の最終化に向けた協議を行うこととなった。この会議において議論され合意された内容がAide Memoireと呼ばれる政府とADBの間の公式文書として記録される。この合意内容を基に、ADB経営陣による案件品質を承認する会議(MRM:Management Review Meeting)におけるフィードバックを踏まえ、モルディブ政府との最終協議である融資契約書交渉(loan and grant negotiation)に臨むこととなる。そのため、このFact-Finding Missionの時点で、ADBとモルディブ政府の間で実質的な意思決定について合意する必要があった。しかし、このFact-Finding Missionが非常に難航することとなり、結果的に、4月20日、22日、5月3日の3回に渡ってオンライン会議が行われることとなった。まず、政策パッケージを構成する各政策の数字、積算根拠、概要等の情報についての確認がなかなか出来なかった。非常事態の中でモルディブ政府も走りながら政策パッケージを作り上げている面があり、取りまとめる財務省と各実施官庁の間のコミュニケーションが混乱することがあった。例えば、提出された予算案をよく見てみると、ルフィアと米ドルの数字が混在して表記されており、財務省と実施官庁に連絡して、急遽夜中にオンライン会議を開いて認識のすり合わせを行う、ということもあった。しかし、この期間、上記のとおりラマダン中にもかかわらず、モルディブ政府は昼夜を問わず精力的に対応してくれ、最終的に政策パッケージの詳細な内容について確認することが出来た。もう一点難航したのは、立案・検証フレームワークの達成目標指標の設定についてである。CPROの特徴として、通常の政策支援型融資(PBL/G)のように改革プログラムが設定されるわけではないので、政府は原則として合意された立案・検証フレームワークの達成目標指標を実現するために努力をすることが求められる。ADBとしては、CPROを提供するからには、その支援が適切に社会的に弱い立場にある女性や貧困層に届くことを確かにしたいという思いがあり、その達成目標指標を出来るだけジェンダーや社会的弱者により配慮した内容にしたいという意図があった。他方、モルディブはムスリム国家ということもあり、文化としてジェンダーに関する指標に対して保守的な側図3:緊急財政支援の承認までのプロセス(JICA)とも緊密な連携をはかり、機関の間でどう分担をして、重複を避けながらも包括的に、モルディブ政府の政策パッケージを支援するか、集団的に検討を進めていった。 政策パッケージの内容が概ね固まってくると、次のステップとして、CPROの支援対象となる政策パッケージの金額等を含む詳細、CPROの進捗をモニターするためのツールである立案・検証フレームワーク(DMF:design monitoring framework)の達成目標指標(target indicator)、そして政策パッケージの実行を支援するための技術協力(TA:technical assistance)の内容についてADBとモルディブ政府の間で正式に合意する必要がある。通常であれば、このためにFact-Finding Missionという出張ミッションを行い、現地に赴いて、ADBと相手国政府の間で対面で協議を行う。しかし、パンデミック下では国をまたいだ移動が困難であったため、代替手段として、4月20日にオンライン会議を開催し、支援内容の最終化に向けた協議を行うこととなった。この会議において議論され合意された内容がAide Memoireと呼ばれる政府とADBの間の公式文書として記録される。この合意内容を基に、ADB経営陣による案件品質を承認する会議(MRM: Management Review Meeting)におけるフィードバックを踏まえ、モルディブ政府との最終協議である融資契約書交渉(loan and grant negotiation)に臨むこととなる。そのため、このFact-Finding Missionの時点で、ADBとモルディブ政府の間で実質的な意思決定について合意する必要があった。 図3:緊急財政支援の承認までのプロセス 支援内容の具体化•プロジェクトチームの組成•稟議書と添付資料の作成•相手国政府との支援内容の協議•立案・検証フレームワーク(DMF)の作成相手国政府との支援内容の合意•Fact-Finding Missionの実施•支援内容、DMF、TAの内容の相手国政府との合意•ADBと相手国政府の間でのAide Memoireの署名ADB行内の稟議プロセス•稟議書と添付資料の最終化•ADB経営陣による案件審議(MRM)•相手国との融資契約書交渉•理事会への稟議書の提出について総裁の承認理事会への稟議プロセス•理事会メンバーに向けた非公式なブリーフィング(IBS)•理事会メンバーへの稟議書の回覧(board circulation)•理事会による審議・決議(board meeting)承認された融資の発効に向けた作業•融資契約書の署名•相手国政府に対する支援金額の払い出し52 ファイナンス 2021 May.連載海外 ウォッチャー

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