ファイナンス 2021年5月号 No.666
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5 支援内容の具体化(4-5月前半)ADBは4月13日にADB’s Comprehensive Response to the COVID-19 Pandemicというポリシーペーパーを公表し、パンデミックに対する支援規模を200億米ドルに拡大するとともに、CPROを正式に支援メニューとして導入した。*16この支援規模の拡大を受け、モルディブに対するCPROの規模が5,000万米ドルに決まり、Maldives:COVID-19 Active Response and Expenditure Support Program(CARES Program)というプロジェクト名が与えられた。また、ADB内においても、CPROの導入により、その組成のためのOne ADBチームが正式に組成された。プロジェクトをリードする南アジア局に加え、経済調査・地域協力局、法務部、会計局、調達・ポートフォリオ・財務管理局等の多様な部局をまたいだ総勢20人以上のスタッフが一つのADBチームとして組成プロセスに携わることになった。このような大所帯のOne ADBチームが協働して効果的に稟議書やその添付資料を作成していくことを可能にしたのが、デジタルツールの存在である。実は、ADBは3月12日に本部建物で開催された会議に参加*16) この詳細な内容についても、ADB駐日代表事務所の児玉代表の「アジア開発銀行(ADB)の新型コロナウイルス問題への取り組み」をご参照いただきたい。 https://www.adb.org/sites/default/les/page/505251/20200520-JOIa.pdf*17) Staff at ADB Headquarters to Temporarily Work from Home https://www.adb.org/news/staff-adb-headquarters-temporarily-work-home*18) 余談であるが、ADB職員も当初からスムーズに業務をオンライン環境に移行できたわけでなく、試行錯誤しながら新しい環境に慣れていくこととなった。例えば、理由はいまだに不明だが、一度、南アジア局のモルディブを含むすべてのCPROの稟議書のデータが保存されていたSharePointのフォルダが手違いで削除されてしまうという事態が起こったことがある。ADBには専門のITサポートチームがいるため、幸い、削除されたデータは早急に復旧することが出来て事なきを得たのだが、致命的な事態とならなかったことに職員一同胸をなでおろす場面であった。本稿執筆時点(2021年4月)でADBの業務が完全にオンライン化してからほぼ丸一年になる。そうした試行錯誤の時期を経て、いまやADB職員にとってオンライン環境での業務は日常のこととなっている。していた外部ゲストの感染が確認された後、本部建物が全面的に閉鎖され、その全ての業務が完全にオンラインに移行していた。*17ADBはパンデミックに先立つ2019年から大幅なシステム改修をしており、SharePointというプラットフォームが導入されていた。スタッフはSharePoint上で協働して文書の作成、記録等の作業をすることが出来、Teams、Skype等の通話ツールを併用することで、本部建物の閉鎖という状況下でも円滑に業務を継続していくことが出来た。*184月はADBではイースター休暇があり、また、ムスリムの国であるモルディブでは4月から5月はラマダンの季節にあたる。例えば、2020年の場合、4月23日から5月23日がラマダン期間となり、ラマダンが明けた5月24日がEidと呼ばれる祝日となる。通常、この期間は官民を問わず就業時間が短くなり、原則として国際機関の出張等も受け入れない。そのため、例年であればモルディブに関する業務がスローダウンする傾向がある。しかし、こと2020年についてはこのことが全く当てはまらなかった。まず、CPRO承認のために必要となる前提条件を政府が充足することを支援しなければならない。また、ADB行内の稟表1:ADBの財政調整支援(プログラムローン)の融資手法の比較政策支援型融資(PBL/G)景気循環対策支援ファシリティ(CSF)COVID-19 Pandemic Response Option(CPRO)融資の対象すべてのDMC通常資本財源(OCR)にアクセスできるグループB国、グループC国のみすべてのDMC融資条件ADBとDMCの間で合意 された構造改革プログラム1.経済の急激な落ち込みと財政ストレスの存在2.外生的な経済ショックに対する政府の景気循環対策パッケージ3.ショック以前の健全なマクロ経済運営実績と、財政フレームワークに基づいた介入プラン4.危機を招いた構造的問題の改革のための具体的計画5.CSFによる影響を含めた債務の持続可能性6.IMFを含めた他の支援機関との連携、IMFによる経済アセスメント1.パンデミックによる経済の急激な落ち込みと財政ストレスの存在2.社会的弱者への対策を含むパンデミック対策の政策パッケージ3.財政フレームワークに基づいた介入プラン4.パンデミックによる国民経済への影響を緩和するための具体的計画5.CPROによる影響を含めた債務の持続可能性6.IMFを含めた他の支援機関との連携、IMFによる経済アセスメント金利条件固定金利-猶予期間:1%-その後:1.5%変動金利-LIBOR等+2%固定金利-猶予期間:1%-その後:1.5%融資期間猶予期間(元本返済):8年融資期間:24年猶予期間(元本返済):3年融資期間:5-8年猶予期間(元本返済):8年融資期間:24年(注)金利条件はモルディブの該当するグループA国の場合。なお、グループA国はCSFの対象とならないため、表中のCSFの金利条件はグループB国、グループC国を対象としたもの。グループB国、グループC国を対象にした政策支援型融資(PBL/G)の金利条件は、変動金利LIBOR等+0.5%であり融資期間は15年(うち3年は元本返済猶予期間)となる。なお、ADBの融資が変動金利の場合、ADBの資金調達コストとLIBOR水準の差を反映させるために、6か月LIBORにSurcharge/Rebateが加えられる。(出所)アジア開発銀行公表資料(https://www.adb.org/sites/default/les/institutional-document/31483/om-d4.pdf)等を基に筆者作成50 ファイナンス 2021 May.連載海外 ウォッチャー

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