ファイナンス 2021年5月号 No.666
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いることから、マレは世界で最も人口密度が高い都市と言われている。イスラム教を国教としており、街を歩けば、モスク等をはじめその影響を見ることが出来る。その地理的特徴の一つとして、海抜の最高が2.4m、平均が1.5mという平坦な地形があり、気候変動に伴う海面の上昇による国土への影響が懸念されている。モルディブのGDPはパンデミックの前の2019年時点で56.3億米ドル(約6,200億円)であり、透明度の高い海と美しいサンゴ礁の存在を背景に、その75%をリゾートをはじめとする観光関連産業に依存している。読者の方々も、モルディブと聞いて連想するのは、ハネムーン等の目的地としての南国のリゾート島のイメージであろう。2019年時点で、一人当たりGDPが10,540.99米ドル(約116万円)に達し、世界銀行の分類上でも高中所得国に含まれている*4一方、マレ首都圏と島嶼部の離島の間では保健医療体制を含むインフラ整備の度合い、雇用や教育の機会、所得水準等に大きな格差があることが課題視されている。2018年の総選挙により成立したソーリフ現政権は、地方分権(decentralization)をその大きな目標として掲げており、2019年に策定されたStrategic Action Plan 2019-2023*5においても、島嶼部の開発に大きな優先度が置かれている。島嶼国であるモルディブの特徴の一つとして、食料や燃料等の生活必需品を自給出来ないため、それらの調達を輸入に頼らざるを得ないということがある。モルディブは伝統的に漁業が盛んであることから、魚介類、水産加工物をタイ等に対して輸出しているものの、上記の点で大幅な輸入超過とならざるを得ない構造になっている。また、モルディブの通貨であるルフィアは米ドルとペッグしてその通貨価値を安定化させているが、モルディブ特有の事情として、それらの裏付けとなる外貨準備を観光・旅行業による外貨の獲得と海外からの対外直接投資(FDI:foreign direct investment)、対外的な借り入れによってバランスするという構造があった。*4) 世界銀行の2021年時点の分類では、厳密には一人当たり“GDP”ではなく一人当たり“GNI”が4,046 - 12,535米ドルの国が高中所得国に含まれる点に留意。https://blogs.worldbank.org/opendata/new-world-bank-country-classications-income-level-2020-2021*5) Strategic Action Plan https://presidency.gov.mv/SAP/*6) IMFは、その設立協定の第4条に基づいて、毎年各加盟国のマクロ経済や金融市場、国家財政の健全性について国別サーベイランスを行い、4条協議報告書(スタッフレポート)にまとめて公表している。 https://www.iima.or.jp/abc/a/6.html*7) ADBは開発途上加盟国(DMC)を1人当たりの国民所得水準や信用力に応じて、3つのグループに分類している。グループA国は、アジア開発基金(ADF:Asian Development Fund)による贈与(グラント)や譲許的融資を受けることができ、グループB国は、譲許的融資および市場ベースによる融資を受けることができる。そして、グループC国は、市場ベースの融資のみの対象となる。また、モルディブ経済の課題として、近年拡大傾向にある対外公的債務の問題が挙げられる。モルディブは、ヤミーン前政権時より、マレ首都島と国際空港を結ぶ橋をはじめとする大規模なインフラ投資を対外的な借り入れにより行ってきた。また、島嶼国の特徴である分散した国土および人口により、諸行政コストが高くなってしまうことが避けられず、その公的債務残高の対GDP比はパンデミック前の2019年時点で76.9%と高い水準にあった。国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)は、今後も公的債務の拡大が見込まれることから、近年の4条協議において、モルディブを“high risk of debt distress”と評価しており*6、ADBの分類上でも、モルディブは信用度の低い、贈与(グラント)と譲許的融資にのみアクセスできるグループA国として位置づけられている。*7首都マレには、その限られたスペースに22万人が居住している46 ファイナンス 2021 May.連載海外 ウォッチャー

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