ファイナンス 2021年5月号 No.666
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が、イールドカーブを不変とする期間を設定できるような仕様になっていることが少なくありません*12。日本国債のキャリー・ロールダウン令和2年11月4日に開催された「国の債務管理の在り方に関する懇談会」では、三菱UFJ銀行が(2016年のマイナス金利導入後の)「20年債キャリー&ロール収益は、マイナス金利導入前の10年債キャリー収益に匹敵」(p.16)とコメントしており、超長期ゾーンのキャリー・ロールダウンが近年大きいことを指摘しています。前節でロールダウン効果は(1)デュレーションの大きさ(D(T-1))と(2)イールドカーブの傾きの度合い(rt(T)-rt(T-1))に依存すると記載しました。この2点でみれば、前者についてはそもそも超長期ゾーンのデュレーションが大きいこと*13、後者については、近年は日銀によるイールドカーブ・コントロールにより10年超のカーブの傾きが急になっていることが、20年債のキャリー・ロールダウンが大きくなっている原因と解釈することができます。もっとも、ロールダウン効果が常に超長期ゾーンで大きくなるとは限らない点に注意が必要です。例えば、三菱東京UFJ銀行(2012)では、2011年のイールドカーブを紹介し、「ロールダウン収益の期待リターンは残存期間8年、9年あたりの債券が最も高く、残存期間20年の超長期ゾーンの債券は相対的に低くなっている」(p.37-38)とコメントしています*14。各国のロールダウン効果を計算した場合、どのゾーンの効果が大きくなるかはまちまちです。イルマネン(2021)は「ロールダウンによるリターンは中期年限で最大になることが多い」*15(p.168)とコメントしています。*12) BloombergではGOVY<GO>で簡易的に証券レベルで見た国債のロールダウンを確認することができます。Bloombergでは、キャリーを「フォワード利回り-スポット利回り([評価日の債券フォワード利回り]-[当日の利回り])」、ロールダウンを「[債券のスプライン・フィッティング後最終利回り]-[償還期間から保有期間を引いた期間のスプライン・フィッティング後利回り]」と定義しています。この際、「フォワード利回り-スポット利回り」はSadr(2009)の言葉を借りればcarry yieldに相当しますが、(価格で定義した)キャリー(=利子収入-レポ・コスト)をデュレーションで割った値に近いイメージになり、金利上昇時のクッションとして解釈できます(詳細はSadr(2009)を参照してください)。*13) ただし、「国の債務管理の在り方に関する懇談会」における三菱UFJ銀行の資料では、20年債のキャリー・ロールダウンについて「金利リスク量10年債換算」としており、10年債と比較するうえでリスク量の違いは考慮されている可能性があります。*14) なお、三菱東京UFJ銀行(2012)では、2011年時点でのイールド・ボラティリティは8、9年あたりが最も高く、逆に20年の超長期ゾーンのボラティリティが低いことから、単にロールダウンの大きさをみるだけでなく、各年のボラティリティも考慮する必要がある点も指摘しています。*15) イルマネン(2021)では、「最短期ではカーブの傾きが大きいもののデュレーションが短いためにロールダウン効果が小さく、最長期ではイールドカーブが逆転していることが多くデュレーションの長さがかえって災いすることさえありうる」(p.168)と説明しています。*16) 2014年6月17日「20年債は調整、ロールダウン効果で入札順調を想定」(ロイター)を参照。*17) ちなみに、この場合のキャリーは、「スワップレート-参照金利」という定義が用いられることが少なくありません。例えば、6か月円LIBORをインデックスとする金利スワップの場合、「金利スワップレート-6か月円LIBOR」という形でキャリーを定義することが通常です。国債の入札の分析でも用いられることは多い国債の入札においても、入札を通じて発行される銘柄のロールダウンの大きさはしばしば議論されます。典型的には、入札の直前の分析や入札結果の解釈などで、ロールダウンを用いた分析がなされます。例えば、ロイターでは、かつての20年債入札において「ロール・ダウン効果は20年債が高くなっており、キャリー益も確保される見通し。保険会社など主力投資家ばかりではなく、銀行勢など投資家層の広がりが想定できる」*16という投資家の見方を紹介しています。金利スワップのロールダウン効果本稿では国債を軸にロールダウンを議論してきましたが、服部(2020b)で説明したとおり、国債と金利スワップは類似的な取引と解釈することができます。そのため、金利スワップからも全く同じようにロールダウンを算出することができます。実際、実務では金利スワップのキャリー・ロールダウンも用いられています*17。金利スワップのロールダウンの場合、「金利スワップカーブが不変であった場合」、時間の経過とともにスワップレートが低下することから得られるキャピタル・ゲインという定義になります。5おわりに本稿ではロールダウン効果に関して包括的に解説を行いました。再度強調しますが、ロールダウン効果の算出に当たっては「イールドカーブが不変」という強い仮定があり、ロールダウン効果を期待リターンとみなせるかは読者自身がこの仮定に納得できるかに依存するでしょう。純粋期待仮説に基づけば、金利上昇という期待がマーケットにあると解釈しうるため、そのように解釈できる場面ではロールダウンは投資尺度と42 ファイナンス 2021 May.SPOT

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